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NHK、原作者による脚本確認を「検閲」と表現…過去に講談社に損賠賠償請求

文=Business Journal編集部
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NHK放送センター(「Wikipedia」より)

 昨年10月期の連続テレビドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)で、原作者・芦原妃名子さんの意向に反し何度もプロットや脚本が改変されていたとされる問題。日本テレビは社内特別調査チームを設置すると15日、発表した。芦原さんは先月29日に亡くなったと伝えられていた。小説や漫画などの映像化における制作サイドによる原作の扱い、および脚本化のプロセスがクローズアップされるなか、過去にNHKが辻村深月さんの小説『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』のドラマ化にあたり、原作者と出版元の講談社からのプロットを見せてほしいという要求に応じず、撮影クランクインの2週間前に準備稿を見せ、講談社から容認しがたい改変があるとの理由に映像化を断られるという事態が起きていた。NHKはドラマ制作の中止を余儀なくされたとして講談社に約6000万円の損害賠償を求めて提訴し、東京地裁はNHKの要求をすべて棄却したが、裁判のなかでNHK幹部が、原作者による脚本の確認について「検閲に当たる」と述べていたことが、改めて問題視されている。

『セクシー田中さん』の問題をめぐっては、日本テレビは先月29日と30日に

<原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております>

などとするコメントを発表して以降、沈黙を守っていた。多くの漫画家や脚本家、有識者などから詳細な経緯の説明を求める声が高まるなか、原作漫画の出版元で芦原さんの原作代理人として日本テレビとの契約ややりとりの窓口だった小学館は今月8日、「第一コミック局編集者一同」名で発表されたコメントを公式HP上に引用。そこには

<ドラマ制作にあたってくださっていたスタッフの皆様には(編集部追記:芦原さんの)ご意向が伝わっていた状況は事実>

と綴られていた。

 一方、脚本を担当する相沢友子さんは自身のInstagramアカウントで8日、

<芦原先生がブログに書かれていた経緯は、私にとっては初めて聞くことばかりで、それを読んで言葉を失いました。いったい何が事実なのか、何を信じればいいのか、どうしたらいいのか>

と投稿。1月に芦原さんは自身のブログ上で、ドラマ化を承諾する条件として日本テレビとの間では<ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』。漫画に忠実でない場合はしっかりと加筆修正をさせていただく>との取り決めを交わしていたと説明していたが、相沢さんはこの取り決めを知らされていなかったとみられている。

 日本テレビ関係者はいう。

「もちろん社内では関係者への聞き取り調査などは行われていたが、局としては最終的には原作者の承諾を得た脚本に基づいて制作し放送しており、契約違反はないというスタンスで、当初は正式に調査や結果の公表をする意向はなかった模様。だが、4月期に小学館の漫画を原作として『セクシー田中さん』と同じプロデューサーが担当する連ドラが放送されると報じられたことも重なり、沈黙を貫く局への世論からの批判は収まらない状況となった。また、小学館が社内の反発を抑えられずに日テレ側に責任があるかのようなコメントを出したのも想定外だった。

 今回、第三者委員会という形態を取らずに社内の調査チームというかたちを取ったのは、調査やその公表を完全に外部に任せてしまうとマズいということで、局としてコントロールできる余地を持っておきたかったのだろう。その意味ではギリギリの線を守ったともいえるが、いくら外部識者の協力を得るといっても、社内の調査チームが調査しましたというかたちで、どれだけ世論の納得を得られるのかは疑問」

 危機管理・広報コンサルタントの平能哲也氏も10日付当サイト記事内で次のようにコメントし、第三者委員会設置の必要性を指摘していた。

「原作者とテレビ局のドラマ制作サイド、脚本家の意見が食い違い、原作者が亡くなるというのは極めて異例の事態。また、この問題は日本テレビと小学館だけにとどまらず、日本のテレビ業界・出版業界全体に影響する事案であり、再発防止という観点でも、しっかりと第三者委員会を設置して調査・結果の公表をすべきといえる」

NHK幹部「第三者が口を出せるということを認めてしまうこと自体が認められない」

 そんななか、同様にドラマ制作における原作の扱いをめぐり裁判にまで発展した過去の事案が再び注目されている。2012年にNHKが放送予定だった『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』を原作とするドラマで、講談社は原作がどのように脚色されるのかを把握するためにNHKに再三にわたりプロットを確認させてほしいと求めていたが、NHKは応じず。講談社はクランクインの2週間前になってようやくNHKから準備稿を見せられたが、容認しがたい改変がされているとしてドラマ制作を容認できない旨を伝えた。するとNHKは、すでに費用が発生していることを理由に、講談社に対し約6000万円の損害賠償を求めて提訴。東京地裁はNHKの要求をすべて棄却したが、NHKはこれを不服として控訴するという紛争が起きていた(その後、東京高裁の和解勧告に基づき和解)。

 そして、裁判のなかで証言に立ったNHK幹部は以下のように発言していたのだ。

<放送局として、我々が作る編集内容に関して第三者が口を出せるということを認めてしまうこと自体が認められない。ほとんど検閲に当たります>(15年4月28日付け講談社リリース「『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』に関するNHKとの裁判の判決に対する講談社の見解」より)

 同リリースのなかで講談社は次のように述べている。

<管理委託を受けている出版社が、原作者の意向を受けて脚本に意見を述べることを「検閲」と捉えていることに、私どもは衝撃をおぼえました>

<NHKは自らの一方的な判断で制作準備を進め、クランクイン予定日を設定していました。にもかかわらず、すでに様々な費用が発生しているので、その全額を払えと、弊社に対して裁判を起こしました。脚本委嘱料、撮影に要する美術費、出演料、職員の出張旅費・手当、会議費、タクシー代、携帯電話代、さらには原作書籍の購入代金まで、すべてを負担せよと要求してきたのです>

<当該スケジュール下での当該制作チームによるドラマ化は容認できないが、NHKから再提案があれば優先的に検討するというものだと、何度もNHKに説明しました。それゆえ、私どもはなぜNHKがこのような裁判を起こしてきたのか、いまだに理解できません>

 テレビ局関係者はいう。

「10年くらい前は、このNHK幹部の思考はNHKに限らずテレビ業界全体に共通のものだったといっていい。モラルとしても法律的にもめちゃくちゃだが、『原作とドラマは別物』という感覚で原作サイドがドラマの内容に口を挟むということは許されないという風潮があった。原作者・出版社サイドとテレビ局の間に明確な力関係が存在するという背景もあったし、その上下関係は今でも残っている。さすがに今ではコンプラ意識や著作権に関する意識の浸透もあり、基本的には局が原作者サイドに脚本について承諾を得ないまま制作を進めるということはない。ただ、ここまでSNSが発達しておらず、多くの漫画家や脚本家たちの意見が公にならない状況であったなら、日テレが正式に調査に動き出すという展開にはならなかったかもしれない」

【これまでの経緯】

『セクシー田中さん』の制作にあたっては原作者の芦原さんは、ドラマ化を承諾する条件として日本テレビ側に、必ず漫画に忠実にするという点や、ドラマの終盤の「あらすじ」やセリフは原作者が用意したものを原則変更しないで取り込むという点を求めていたとされる。芦原さんが1月にブログなどに投稿した文章によれば、何度も大幅に改変されたプロットや脚本が制作サイドから提出され、終盤の9〜10話も改変されていたため芦原さん自身が脚本を執筆したという。

 問題が表面化したのは昨年12月のことだった。脚本を担当する相沢友子さんは自身のInstagramアカウントで、

「最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました」

「今回の出来事はドラマ制作の在り方、脚本家の存在意義について深く考えさせられるものでした。この苦い経験を次へ生かし、これからもがんばっていかねばと自分に言い聞かせています。どうか、今後同じことが二度と繰り返されませんように」

と投稿。9話・10話の脚本は自身が担当していない旨を説明した。

 これを受けさまざまな憶測が飛び交うなか、1月に芦原さんは自身のブログ上で経緯を説明。ドラマ化を承諾する条件として、制作サイドと以下の取り決めを交わしていたと明かした。

<ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』。漫画に忠実でない場合はしっかりと加筆修正をさせていただく>

<漫画が完結していない以上、ドラマなりの結末を設定しなければならないドラマオリジナルの終盤も、まだまだ未完の漫画のこれからに影響を及ぼさない様『原作者があらすじからセリフまで』用意する。原作者が用意したものは原則変更しないでいただきたい>

 芦原さんは、これらの条件は<脚本家さんや監督さんなどドラマの制作スタッフの皆様に対して大変失礼な条件>であると認識していたため、<この条件で本当に良いか>ということを原作漫画の発行元である小学館を通じて日本テレビに何度も確認した上でドラマ化に至ったという。

 だが、実際に制作が進行すると毎回、原作を大きく改編したプロットや脚本が制作サイドから提出され、

<漫画で敢えてセオリーを外して描いた展開を、よくある王道の展開に変えられてしまう>

<個性の強い各キャラクター、特に朱里・小西・進吾は原作から大きくかけ離れた別人のようなキャラクターに変更される>

といったことが繰り返された。そして1~8話の脚本については芦原さんが加筆修正を行い、9~10話の脚本は芦原さん自身が執筆し、制作サイドと専門家がその内容を整えるというかたちになったという。

(文=Business Journal編集部)

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