2024年春闘で、相場のけん引役と期待される自動車や電機大手など製造業の労働組合の要求が15日までに出そろった。物価変動の影響を差し引いた実質賃金でマイナスが続く状況や人手不足の深刻化への労使の危機感は強く、満額回答が相次いだ23年以上の高額要求が並ぶ。実質賃金のプラス転換に向け、物価高に負けない大幅な賃上げが実現するかが焦点となる。
◇ベア1万円超要求
電機大手は、業界全体の賃金引き上げを目指すため、大手が要求をそろえるのが慣例だ。24年は、現行の要求方式となった1998年以降で最高となるベースアップ(ベア)月1万3000円を要求した。記者会見したパナソニックグループ労働組合連合会の福沢邦治中央執行委員長は、実質賃金のマイナスが続いている状況を打破するため「昨年を上回る水準を要求していかなければいけない」と意気込みを述べた。
15日までに要求書を提出した労組では、造船重機大手がベア1万8000円を掲げた。2年ごとの交渉のため急激な物価上昇への対応が遅れた鉄鋼はベア3万円、JR各社はベア1万円と、近年にない高水準の要求が相次いでいる。自動車では、トヨタ自動車労働組合がベアと定期昇給を合わせた賃金改善分として、1人当たり7940~2万8440円を要求。ホンダは2万円を掲げた。
この背景には、実質賃金のマイナスが続くことへの危機感がある。厚生労働省が公表した23年の毎月勤労統計調査では、実質賃金は2年連続のマイナスとなった。物価上昇に賃上げが追い付いておらず、「組合員からは、前年あんなに賃上げで盛り上がったのに家計は苦しいとの声がある」(製造業大手の労組幹部)という。
◇国際的に見劣り
日本の賃金水準は国際的にも見劣りする。経済協力開発機構(OECD)が算出した加盟国の平均賃金(22年、ドル建て購買力平価換算)で、日本は円安も響き38カ国中25位に沈む。日本がデフレ経済下で賃金の伸びがほぼ横ばいだったのに対し、ほかの加盟国の賃金はおおむね上昇を続けた。23年は大幅な賃上げが実現したものの諸外国との差は依然として大きく、国際的な人材獲得競争で遅れを招きかねない。
経営側も人材の確保・定着に賃上げは欠かせないと考える。日立製作所の田中憲一執行役常務は「(諸外国との賃金水準に)差があることで、日本企業としてグローバルな人材獲得の面から課題となる可能性はある」と話す。
◇政労使で機運醸成
政府も経済の好循環を生み出すために持続的な賃上げが必要との認識だ。今春闘の本格化を前に、3者は二度にわたり「政労使会議」を開催。大企業だけでなく雇用の7割を占める中小企業への賃上げ波及に向け、人件費を含む価格転嫁の必要性などをアピールしている。
第一生命経済研究所の新家義貴シニアエグゼクティブエコノミストは、24年の春闘賃上げ率を3.95%(23年実績3.60%)と予想。人手不足感が強まっていることから「相対的に業績が厳しい中小企業でも、防衛的な賃上げを行わざるを得ない」と分析している。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/02/15-19:56)