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NHKスペシャル、優れた調査報道…ジャニーズに移ったNHK元理事に直撃取材

文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授
NHKスペシャル、優れた調査報道…ジャニーズに移ったNHK元理事に直撃取材の画像1
NHK放送センター(「Wikipedia」より)

 今月、旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.<スマイルアップ>)からマネジメント業務などを引き継いだSTARTO ENTERTAINMENT(スタートエンターテインメント、以下スタート社)の所属タレントの番組起用を再開すると発表したNHK。そのNHKが今月20日に放送した『NHKスペシャル ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像』に、高い評価が寄せられている(再放送は10月24日午前0:40~)。ジャニーズ事務所の創業者・故ジャニー喜多川氏による性加害問題を特集したものだが、フォーリーブスの江木俊夫氏(72歳)や、ジャニー氏から被害を受けていた初代ジャニーズの中谷良氏(2021年に死去:享年74歳)の姉へのインタビュー取材を実施。また、NHK元制作局長・元理事で在籍中はジャニーズ事務所と太いパイプを持ち、NHK退社後はジャニーズ事務所に移った若泉久朗氏への直撃取材も行い、後日書面で「幅広い世代層を獲得するために 旧ジャニーズ事務所は重要なパートナーの一つで NHKが支持される重要な役割を担ってもらいました」という証言を引き出すなど、NHK自身の過去にも切り込んでいる。専門家は「優れた調査報道」だと評価する。

 ジャニー氏(2019年7月に死去)の性加害が社会的に大きな問題となったきっかけは、昨年3月に英国公共放送(BBC)が放送した特集番組だった。テレビ各局は当初、沈黙を続けていたが、被害を受けた元ジャニーズJr.の男性が日本外国特派員協会で会見を開いたことで、徐々にテレビでも報じられるようになり、同事務所に対する批判が拡大。同社は再発防止特別チーム(座長:林眞琴元検事総長)を立ち上げ、調査報告書を公表。藤島ジュリー景子氏は社長を退任し、東山紀之氏が社長に就任。同社は補償業務のみを行うスマイルアップに社名を変更し(将来的には廃業の予定)、所属タレントのマネジメントは新会社・スタート社に引き継がれることになった。

「なんで僕なんですか? しかも仲間じゃないですか」

 今回の『NHKスペシャル』は、当時を知るテレビ局の元社員や元ジャニーズ事務所社員、ジャニー氏と姉で元会長のメリー喜多川氏と親交があった人物などの証言も交えて、ジャニー氏による性加害の実態と、テレビ界がその問題を見過ごしてジャニーズ所属タレントを起用し続け事務所の成長を招いた構造的背景を検証するもの。その検証の矛先はNHK自身にもおよび、NHKが積極的にジャニーズ所属タレントを起用するに至った経緯などにも言及している。

 なかでも視聴者から驚きを持って受け止められているのが、NHK元理事で現在はスタート社の顧問に就いている若泉氏への直撃取材だ。若泉氏は「なんで僕なんですか? しかも仲間じゃないですか。僕個人で今、ここで語ることはできない」と話し、後日、スタート社を通じてNHKに対し以下の回答を寄せている。

「NHKへの接触者率が減少し続け このままでは将来 公共放送として生き残れるか という危機感が広がっていました
NHKはもっと幅広い視聴者層に見て頂き、信頼を高めることを経営計画に定めました
 幅広い世代層を獲得するために 旧ジャニーズ事務所は重要なパートナーの一つで NHKが支持される重要な役割を担ってもらいました」

NHKなりに検証した、優れた調査報道

 今回の放送内容について、元日本テレビ・ディレクター兼解説キャスターで、上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明氏は次のように評価する。

「なぜテレビ界はジャニー氏の性加害を止めることができなかったのか、どこに問題があったのかということについて、すでに明らかになった事実を前提として、NHKなりに検証した、優れた調査報道だと評価できます。そう評価する理由は主に2つで、1つは、NHK元理事でジャニーズに移った人物に取材を行い、事務所を通じて本人のコメントを得ているという点。もう1つは、事務所初期を知る初代ジャニーズのメンバーの家族やフォーリーブスのメンバーに直接話を聞き、歴史的な振り返りを交えて芸能界にどのような背景があったのかを検証している点です」

 NHKは今月、スタート社所属タレントの番組起用を再開すると発表したばかりだが、このタイミングでこのような特集を放送したことについて、局として何らかの意図を持って時期を合わせたのではないかという見方もある。

「起用再開の発表と今回の『NHKスペシャル』放送という2つの事柄は、関係があると考えられます。NHKはいったんは旧ジャニーズの所属タレントの起用を自粛しましたが、旧ジャニーズによる被害者への補償がどこまで進んでいるのかということなどを判断基準として、再開するタイミングを見計らっていたのは事実でしょう。そして再開に当たっては、国民から広く受信料を徴収する立場である以上、NHKが自身の責任をどう捉えているのかを視聴者に説明する責任があり、その説明の一つに今回の『NHKスペシャル』があると考えられます。

 放送内容について事前にNHKの経営陣や理事、制作局長のレベルにまでチェックを受けたのかは分かりませんが、少なくても制作を司る『NHKスペシャル』事務局の責任者まではチェックを受けて承認を得ていると思われます」

「それ(=謝罪)、東山(紀之社長)がするの?」

 番組内ではジャニー氏から被害を受けていた初代ジャニーズの元メンバー、故・中谷良氏の姉がインタビュー取材に応じ、スマイルアップ補償本部本部長から電話で以下のように言われるシーンも放送された。

「心の底からお詫びができない」

「それ(=謝罪)、東山(紀之社長)がするの?」

「ちょっと僕は納得できない」

「僕、そのときのこと知らないんで。じゃあ謝罪すればいいのかな、としか今ちょっと思えなくて」

「何で東山が(謝罪を)しなきゃいけないのか、僕、わかんないですよ。東山は別に加害者じゃないですからね」

 また、中谷氏の姉によれば、事務所に補償の申し入れをしたところ、中谷氏がジャニー氏の性加害を告発する書籍を出版したことを理由に補償を拒否されたといい、同社からは、社内で「ジャニーズに反抗する本を出しているような人に、そんなお金なんか出せるか」という話になったと説明を受けたと語っている。一方、スマイルアップはNHKの取材に対し、「いわゆる暴露本を出版したことをもって補償対象としないという方針は有していない」と回答している。

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。
上智大学 水島宏明教授プロフィールページ

Twitter:@hiroakimizushim

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