ただ、その自動車で、日本独自の規格である軽自動車が厳しい立場に置かれるとの指摘がある。米国ではかねて軽自動車について、非関税障壁だと指摘する声が聞かれるためだ。軽の規格があるために米国車が売れないという論理で、場合によっては廃止の圧力が高まることも予想される。
一方、軽自動車というコンパクト規格が、引き続き日本の強みになるとの見方も少なくない。現在の軽自動車は何度かの規格変更を経て、全長3.40メートル以下、全幅1.48メートル以下、全高2.00メートル以下、排気量660cc以下などとなっている。軽自動車は日本独自の規格であり、世界には存在しないレギュレーション(規制)だ。国内で独自の進化を遂げたが世界で普及しなかった携帯電話「ガラパゴス携帯」(ガラ携)になぞらえて、軽自動車を「ガラ軽」と揶揄する向きもある。
しかし、このコンパクトさが存在感を高めつつある。環境に配慮する機運が高まっている先進国では、ハイブリッドや電気自動車といった付加価値の高い環境対応車が注目を集めている。一方、所得水準の低い新興国では、自動車が普及し始めたばかりの国や地域も少なくない。こうした場所では値段が安くて、少ない燃料でたくさん走ることができる小型車が重宝される傾向が強い。
この点、軽自動車は厳格なレギュレーションで室内空間の確保、足回りの快適性、安全性の維持を最大限に実現してきた、という歴史がある。ここで鍛えた日本メーカーの優位性は高く、こうした「コンパクトだが高性能な車」が新興国などで強さを発揮できる公算は大きい。
大手証券のアナリストは「TPPで軽自動車規格に廃止圧力が強まったとしても、日本メーカーの技術的な優位性が揺らぐことはない」としている。
●新興国で人気は当然
日本における軽自動車は、戦後道路が整備されていない環境で、モータリゼーションの推進のため、消費者に手の届きやすい価格帯にした「国民車」的な位置づけだった。日本が先鞭をつけたコンパクト車が、自動車を買えるようになった新興国で受け入れられるのは当然ともいえる。厳しい規格で戦ってきた軽自動車は、規格が緩くなると一層強みを発揮する。
例えば、スズキは1980年代にインドで、同社の軽自動車「アルト」のエンジンをやや大きい800ccにした「マルチ800」を発売し、現在では高いシェアを誇っている。インドネシアでは、燃費が良く価格が安い自動車を普及させるための優遇税制などを導入する方向。同地域ではトヨタと系列のダイハツの合計でシェア5割以上を誇っている。すでにコンパクトカーでの実績があるため、制度導入は追い風になる可能性がある。660ccで培った技術は800~1000ccといったワンサイズ大きい車でも、十分に強みを発揮できることが示されている。
日本では若者の自動車離れや免許取得人口の減少などで自動車業界全般は厳しい。そんな中で、新車販売10台のうち、実に4台は軽自動車となっている。価格が安く燃費性能に優れるうえ、各社の工夫でパワーや居住性を兼ね備えていることが人気の要因。
スズキ、ダイハツのほか、各社も「軽」に注力している。本田技研工業は「N BOX」などのシリーズで、スズキ、ダイハツに次ぐ3強を形成しつつある。日産自動車は三菱自動車と共同開発した軽自動車を、両社のブランドである「DAYZ」(デイズ)「eKワゴン」で投入。将来のシェア20%を目指すなど、軽自動車をめぐる戦いはヒートアップしつつある。仮に、「軽自動車」という規格が外れることがあっても、日本発のコンパクトカーの存在感は維持されそうだ。
(文=和島英樹/ラジオNIKKEI 記者)