マツダの偉業 世界のクルマの常識を凌駕する独自技術を開発、止まらない進化
しかし、そのダウンサイジング優位論に一石を投じるクルマが現れた。これまでパッとしなかった日本のCセグ市場に、スカイアクティブテクノロジーという武器を引っ提げて登場したマツダのアクセラだ。こちらは2リッターのNAガソリンエンジンだが、パフォーマンス、そして燃費もダウンサイジングターボに比べても遜色ない。スカイアクティブテクノロジーで開発されたガソリンエンジンとディーゼルエンジンは、欧州メーカーもマネできない独自技術の結晶なのだ。
2リッタークラスのエンジンなら、1.4リッターターボにしたほうが燃費は良くなると証明したのがVWのTSIエンジンであった。この技術は2005年頃にゴルフGTに搭載されて登場したのが最初だ。開発したのはVWのエンジン技術部門のルドルフ・クレープス博士で、ダウンサイジングターボのコンセプトをフェルディナンド・ピエヒ会長に提案したところ「モノになりそうなので、(VWグループの)アウディに転籍して開発を続けなさい」と言われたそうだ。
アウディは1980年代からクワトロにターボを搭載しており、経験が豊富だ。クレープス博士はアウディの研究部門で研究を続け、ダウンサイジングターボが完成するとVWに戻りゴルフに搭載して市販化した。当時の欧州はディーゼル車に人気が集まり、ガソリン車は見向きもされない時代だった。クレープス博士はなんとかガソリンエンジンをディーゼルに負けない魅力的なエンジンにしたいと考えていた。VWから始まったダウンサイジングターボブームは、独ポルシェや伊フェラーリに影響を与えるほどになったが、その勢いに待ったをかけたのがマツダの人見光夫常務である。
人見常務は日本の自動車エンジンに革命を起こした人物で、ガソリンエンジンの場合、ダウンサイジングターボのように排気量を小さくせずに、高圧縮で燃焼させたほうが効率的であるという主張を掲げている。つまり、ターボは効率のよい負荷や回転数から外れると、一気に燃費が悪くなる。だから多段化したギアボックスが必要になり、欧州や日本のモード燃費に合わせると良い数値が出やすくなる。だが、実用的な燃費ではNAの高圧縮エンジンに分があると考えている。
ゴルフとアクセラを乗り比べ
VWとマツダの主張のどちらが正しいのか。実際に、ゴルフ(1.4リッター、TSI、直噴ターボ)とアクセラ(2リッター、NA、高圧縮)を比較してみた。
いつも燃費計測で使う一般道コースを2台で走ると、ほとんど同じ14km/L(リッター)の燃費となった。しかし高速を使った負荷の大きいテストモードでは、アクセラのほうが燃費はよかった。アクセラの2リッターエンジンは、アイドルストップ機能はあるが、ゴルフのような気筒休止はまだ採用していない。人見常務は、「気筒休止は意味があるし、将来はトルコンAT(トルクコンバータを使用した自動変速機)の多段化も重要だ」と語っているから、今後、もしこの2つの技術が導入されると、アクセラの燃費と走りはさらに進化すると考えられる。
エンジン評価だけではなく、実際に使ってみてもゴルフが採用しているDSG(デュアルクラッチ)は、どうも筆者と相性が悪い。発進時にギクシャクするのだ。ポルシェのように低回転で大きなトルクがあるといいのだが、1.4リッターや1.2リッターのDSGは好きではない。そこで、ギアボックスに関してはマツダがこだわるトルコンATがベストチョイスだと感じた。低速で走ったり、車庫入れするときはアクセラのほうが簡単だ。ターボ+DSGは微低速の走りが難しい。しかも、トルコンATはクルマの一生分の耐久性があるとみられるが、DSGはいわゆるクラッチを採用しているので、いずれ交換が必要となるだろう。そのコストが心配だ。新しい技術なので、耐久性にも不安がある。
しかしゴルフは、いったん走りだせば気持ちがいい。ターボのタイムラグも感じないし、2リッターエンジン以上のトルクを絞り出し、とても元気だ。その魅力だけでもTSI+DSGの価値はあるかもしれない。だが、NAのアクセラもターボほどのトルクはないが、スムーズさではNAエンジンならではのすがすがしさを持っている。トルコンATとのマッチングもよく、ゴルフとは違う快適さがある。
(文=清水和夫/モータージャーナリスト)
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