自動車のスマホ化
「自動車が無料になる日が来るかもしれない」
2009年に上梓した拙著『新・プラットフォーム思考』(朝日新聞出版)で書いた一文だ。さすがに近い将来に無料にはならないだろうが、将来、電気自動車(EV)が普及した際には自動車が携帯電話(スマートフォン)に4つの車輪が付いたものになっていき、広告モデルやコマース、保険、自動メンテナンスなどのアフターサービスといった多様な収益源が生まれることで、自動車のビジネスモデルが大きく変わる可能性は十分にあると思っていた。
そして今、自動車のスマホ化が現実化しつつある。
EVのエンジンの部品数は、ガソリンエンジンのそれと比較して100分の1程度といわれている。今後、電池が軽量化され低価格化されれば、多くの企業が自動車メーカーになる可能性はあるだろう。
米テスラモーターズのHP上では、「モデルSは車輪がついたアプリだと考えてください。モデルSはソフトウェアのアップデートにより、常にテスラが開発した最新の機能に更新されます」と紹介されている。ソフトウェアをアップデートすることにより、不具合対応や故障箇所の通知、機能追加ができ、リコール対応をすぐに顧客に伝えることができるようになる。また、ユーザーからのフィードバックや利用データを元に車の走行方法を変更できたり、グーグルカレンダーとカーナビを連携して自動的に目的地を設定したり、電池残量を元に最短ルートを選択したりすることなどが可能になるのだ。
しかし、問題の本質はさらに別のところにある。
巨大なパソコンメーカーであった米IBMが、やがてOSの下請けであった米マイクロソフトに市場の覇権を握られてしまった歴史を彷彿させる出来事が進行中だ。米国では、すでにそうした指摘が数多くされている。
今後多くの自動車はネットワークにつながれ、スマホ化あるいはパーソナル・コンピューター(PC)化していくと予測されている。実際EVにグーグルのAndroid AutoやアップルのApple CarPlayといったソフトウェアが搭載されていくことに、多くの自動車メーカーは同意しつつある。5月26日、韓国・現代自動車の米国法人Hyundai Motor AmericaはAndroid Autoを量産車に採用すると発表した。これはIBMとマイクロソフトの関係を彷彿させる。