すると何が起きたか。メーカーとしては安い上に出荷ベースならば全部にマイクロソフトのOSを搭載してしまおう、と考えた。かくして他社のOSよりもマイクロソフトのOSを搭載するメーカーが急増して、市場シェアをあっという間に奪ってしまったのだった。同社の巧妙な交渉力の賜物といえるだろう。
こうしてIBMからの依頼を一度は断ったマイクロソフトは、目先の利益ではなく10~20年後の業界全体の未来予想を行い、OSプラットフォームの覇権を握り、今日の成功を築くことに成功した。ゲイツがいかに戦略的な経営者であり、プラットフォーム戦略思考を有していたかがわかる。もっとも近年は、スマホやタブレットが急激に市場を拡大しており、同社はグーグルのAndroidやアップルのiOSに大きく後れをとってしまった。
ちなみにIBMは81年に世界で初めてPCを発売したが、23年後の04年にパソコン事業を中国レノボに売却し撤退したことは周知のとおりだ。
グーグルやアップルが、クルマの覇権を握る可能性
以上からいえることは、自動車業界も将来ネットワーク化が進み、さらに現在EVの価格の半分程度を占めているといわれる電池の価格が低下すれば、一気に自動車がコモディティ化していき、OSプラットフォームを押さえるグーグルやアップルが覇権を握る可能性は十分あり得るのではないだろうか。
さらに自動車メーカーだけでなく家電製品がIoT(Internet of Things:モノとネットの融合)によってネットワーク化する中で、家電メーカーも含めて日本メーカーの経営陣は目先の課題だけでなく10~20年後の業界未来図を思い描き、今からハード以外への対策を取る戦略的思考経営を目指すことが求められている。
(文=平野敦士カール/ビジネス・ブレークスルー大学教授、ネットストラテジー代表取締役社長)