マーライオンに学ぶ?東京経済特区と地方工場群で日本再生
(画像は筆者提供)
現在のソーシャル × モバイル化へと続くWeb2.0時代の到来をいち早く提言、IT業界のみならず、多くのビジネスパーソンの支持を集めているシリアルアントレプレナー・小川浩氏。そんな“ヴィジョナリスト”小川氏が、IT、ベンチャー、そしてビジネスの“Real”をお届けする。
久しぶりにシンガポールに出張してきた。いや、久しぶりどころの騒ぎではなく実に12年ぶり。ということは、今世紀初の訪星ということになる。僕は1994年から2000年までマレーシアの首都KLに住んで事業をしており、シンガポールにも会社を持っていた。だから20回以上はシンガポールに来ているのだが、結局のところ僕が知っているシンガポールは、前世紀の情報にすぎないわけだ。
今回の出張の目的はAFA(アニメーションフェスティバルアジア)という、アニメとその周辺商品群のファンを集めるカンファレンスへの出席で、人気声優の岸尾だいすけさんのファンイベントのサポートのためにやってきた。岸尾さんは声優としては初の専用ソーシャルネットワークサービス(SNSと言えばいいのだが、和製英語なのでなんとなく使いたくない……)を11月からスタートしており、そのプラットフォームを僕が新たに興したスタートアップであるRevolverが提供しているという関係だ。
シンガポールの街並みは、大きくは変わっていなかった。繁華街の中心であるオーチャードロードの景観は変わっていたが、想定内の変化であり、メタデータとしての印象は変わらない。順当な進化だったが、誰もが意外な小ささ(笑)に驚くというマーライオンの周辺は、某男性アイドルグループ出演のCMで有名になったマリーナベイ・サンズを筆頭に、カジノやレストランなどの遊興施設と、その周りを取り巻く巨大な高層ビル群によって様変わりしていた。規模の大きなみなとみらい(横浜)、といったイメージだ。
●テクノロジーと伝統の融合的シンボル
その小さなマーライオンであるが、彼はシンガポールの発展を象徴する存在である。何かというと、彼が吐き出している大量の水は海水ではなく、淡水であり、もともと地下水をいっさい持たずに建国以来ずっと飲料水の安定的確保を悲願にしてきたシンガポールがたどりついた、テクノロジーと伝統の融合的シンボルなのだ。マレーシアの前身といえるマレー連邦から独立して以来、シンガポールは石油などのエネルギー源の確保と同様に、いやそれ以上に真水の確保に必死になって取り組んできた。周囲を海水に囲まれていながら国土が極端に狭いため、飲料水を100%輸入に頼ってきた。
その多くはマレーシアからジョホール経由のパイプラインで運んできており、マレーシアとの政治的な軋轢が起きたときに、水を断たれるというリスクを常に負ってきたのだ。だから、海水を真水に変えて、飲料水を確保するという技術を得て、国家事業とすることで、シンガポールは発展へのアクセルを踏むことができた。つまり、水を得るためにさまざまな難しい政治的な局面を乗り越えると同時に、テクノロジーによってそうした苦難を解消した。
要するに、シンガポールとは政治とテクノロジーの国だ。小国のハンデを乗り越え、他の東南アジア諸国や中国からあらゆる意味での独立を保ってきたのは、強いリーダーシップの賜物であり、同時に英語を母国語とし、金融センターとして生きる道を選び、今度は新たな推進力としてIT事業のサポートのために厚い制度をつくる。
●東京経済特区
日本の政局も揺れているが、僕自身は地方活性化や分権といった制度ではなく、シンガポールに倣うならば、まず東京を再活性化するプランが良いのではないかと思う。シンガポール同様に東京にカジノをつくるのも一つのプランだが、東京、特に23区を経済特区として、世界に輸出できる産業のみを優遇する。日本のテクノロジーは、少なくとも完成品としてのハードウェアをつくる技術は、すでに韓国や台湾らに追い抜かれつつある。精度の高い部品をつくる技術はまだ上かもしれないが、国家全体で見ると、あまり儲からない。