5月11日に発表した2015年3月期連結決算は、売上高こそ前期比0.9%増の1兆5290億円にとどまったが、営業利益は同7.8%増の1861億円、純利益は同30.4%増の1002億円で、純利益は7期ぶりに過去最高を更新。ライバルの三菱地所に1.4倍の差を付けた。直接的な要因はオフィスビルやららぽーとなど商業施設の賃貸事業の好調と、分譲マンションの売却益伸長によるものだが、背景には事業バランスの良さがある。売上高の53%(15年3月期)をオフィスビル事業に依存している三菱地所と対照的だ。
事業バランスの良さは、前回過去最高益を達成した08年3月期決算と15年3月期決算の売上高構成を比較してもうかがえる。過去7年で事業内容や事業区分が変わっているので厳密な比較はできないが、08年3月期の売上構成は賃貸事業(オフィスビルや商業施設賃貸)35%、分譲事業(マンション開発・分譲)28%、完成工事事業(戸建て住宅建築請負や各種建築物の内装)14%、マネジメント事業(オフィスビル・商業施設・住宅等の管理受託や不動産売買仲介)14%などとなっていた。
それが前期は賃貸事業30%、分譲事業28%、三井ホーム(戸建て住宅建築請負やオフィスビル・商業施設等の改修)16%、マネジメント事業21%などに変わっている。7年前は賃貸と分譲の2事業への依存度が高かったが、現在ではマネジメント事業が伸びて事業が3本柱体制となり、今後の成り行きでは三井ホームも大黒柱に育ち、4本柱体制になる可能性も出ている。証券アナリストも「景気好不況の影響を受けにくい事業基盤が整いつつある」と評価する。
そんな三井不動産の成長戦略に、死角はないのか。
「三井不動産ショック」
昨年9月5日、株式市場に「三井不動産ショック」が起きた。1980年以降で初めて同社の時価総額が三菱地所のそれを追い抜いたのだ。同日の三井不動産の時価総額は3兆3981億円で、三菱地所は3兆3939億円。たった42億円の微差とはいえ、そのショックは「微差にすぎない」事実を吹き飛ばすほど大きかった。何しろ「丸の内の大家」の異名を持ち、不動産開発業界の盟主として長く君臨してきた三菱地所が、ライバルの後塵を拝したのだから。
東京・丸の内エリアに多くの大規模オフィスビルと土地を所有する三菱地所の含み益は約2兆円に達する。一方、三井不動産の含み益は約1兆2000億円(共に14年3月末)にすぎず、この差が三菱地所の時価総額の高さを支えてきた。「まさか」の事態に三菱地所社内のショックも大きかったといわれる。