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高橋篤史「経済禁忌録」

東芝“不正”会計、「組織的関与・利益かさ上げ」批判は正しい?過去の粉飾事件との比較論

文=高橋篤史/ジャーナリスト
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東芝“不正”会計、「組織的関与・利益かさ上げ」批判は正しい?過去の粉飾事件との比較論の画像1東芝の事業所(「Wikipedia」より/Waka77)

 今月21日に行われた東芝の「不適切会計」をめぐる記者会見で、多少の違和感とともに印象に残る場面があった。2時間近くに及んだ会見の最後、進行役が質疑を打ち切った直後、田中久雄社長(同日付で辞任)が「最後に一言だけ」と言い、会場に詰めかけた200人を優に超す記者や証券アナリストらに向かって、やおら感謝の言葉を述べ始めたのである。

「(社長就任から)2年間、大変ありがとうございました」――。

 それが締めの言葉だった。
 
 まるで不慮の怪我で引退に追い込まれたスポーツ選手か何かを見るような思いがした。今回の不祥事が重大な結果を招いたことは火を見るより明らかだが、従業員20万人のトップにまで上り詰めた田中氏本人は最後の最後まで“悪気”を感じていないようだった。会見中、「不適切な会計処理がされているとの認識はなかった」と責任逃れともとれる弁明に終始していたが、それはあながち嘘ではなく、本心からそう思っていたのかもしれない。
 
 歴代トップ以下の組織的関与で利益かさ上げが行われていた――。第三者委員会による調査報告書の片言隻句を引き、そう報じるマスコミが多い。刑事事件として扱うべきだという論調さえ広まっているが、調査報告書を読む限り、後述する手口の悪質さや利益かさ上げ額の規模などからして、田中氏の“悪気”のなさを一方的に責め立てるのは少し酷な気もする。売り上げ計上のタイミングにせよ何にせよ、複雑多岐にわたる商売の形態とともに、もともと企業会計には一定の幅が許容され得るという、一連のマスコミ報道ではほとんど省みられない真実に照らせば、その感はより強まる。

 会見では民放テレビ局の人気女性キャスターが「これは粉飾ではないのですか」と田中氏に詰め寄る場面もあった。確かにテレビ的には絵になるのだろう。しかし、筆者からすると、それは問題の本質からほど遠い質問だ。「粉飾」とレッテルを貼ることで、勧善懲悪的に問題を片付けたような気にさせるのは日本のマスコミの悪い癖である。そもそも「粉飾」という言葉は法律や会計ルールに書いてあるわけではない。その事象を見る人がどう言葉を当てはめるかの問題にすぎない。

「粉飾決算」「不正会計」「不適切会計」の違い

 この手の問題が起きた時、重大性の順におおよそ3つの呼び方があるだろう。「粉飾決算」「不正会計」、それに「不適切会計」である。マスコミがやたら「粉飾」と言い募り、逆に会社側が「不適切会計」で通し続けているのはそうした暗黙の評価尺度からだ。

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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