3つを線引きする明確な数値基準はないわけだが、筆者はこれまで概ねこう使い分けてきた。「粉飾決算」とは、トップ自らが主導し規模や悪質さにおいてその企業の存立を根底から揺るがすようなもの。「不正会計」はそこまでいかないものの一定の規模や組織的関与、悪質さが認められるもの。そして「不適切会計」は単純な経理処理のミスなど悪意が認められないものである。
これは見方を変えれば、「粉飾決算」は刑事事件、「不正会計」は課徴金事案、「不適切会計」は単なる過年度決算の訂正事案という分け方にほぼ等しいともいえる。それらからすると、東芝の問題は「不正会計」という言葉を当てはめるのが今のところ妥当だと思う。以下、具体的に過去の代表的な事例との比較で見ていくこととする。
規模の問題
まず規模の問題である。
2008年度から14年度第3四半期までの約7年間で、東芝は1562億円の利益(税引き前損益ベース、三者委の指摘額と自主チェック分の合計)をかさ上げしていたとされる。絶対額が大きいことが即ち悪であるとの見方がよくなされるが、それは正しくない。絶対額は尺度のひとつにすぎず、より重要なのはそれまでの公表額と実態額との比較感、要は決算の見え方である。
それからすると、東芝の利益かさ上げ額は年間でならせば200億円強。6兆円前後の売上高がある会社からすれば、目が飛び出るほどの金額ではない。売上高が大きければ大きいほど本業利益のかさ上げは容易であり、当然ながら売り上げ以上の利益水増しは不可能だ。誤解を恐れずにいえば、東芝の場合、単年度に限るならその程度の差が悪意のない経理処理のミスで生じることもあり得るレベルである。
例えばカネボウの場合、大量の不良在庫などを抱えた子会社群の連結外しにより約2200億円の損失が簿外に隠されていた。これは売上高の3分の1に匹敵するような規模だ。その額を純資産に反映させれば1500億円以上の債務超過に陥るという致命的なものでもあった。債務超過は上場廃止基準に抵触するものだし、通常それほどの債務超過額であれば会社の存続は難しい。
いまだ議論が多くなされているライブドアの場合はどうか。ダミーの投資組合を通じた実質的な自社株売却による収益の売り上げ計上などによる経常利益の水増し額は約53億円と、それほどの額でないように映る。ただ、売上高の約16%に相当する額であり、より重要なことはそれがなければ実態は3億円の赤字だったという点だ。黒字と赤字とでは決算の見え方に雲泥の差がある。