東芝は一括調達した部品を組み立て業者に支給する際、いったん売り上げ計上する「バイセル方式」と呼ぶ有償支給のやり方を04年以降とっていた。その際のポイントは、調達単価という企業にとっての機密情報を守るため、一定額を上乗せした「マスキング価格」で支給していたことである。その上乗せ分は利益だ。
ただ、当然ながら完成品を東芝が買い戻す際、上乗せ分は相殺処理することとなる。だから利益といっても一時的なものだ。かなり複雑な取引だが、不合理といえるものでもなく、有償支給は他社でもみられる方式である。また、期末の棚卸しなどを考えれば、無償支給が合理的とも限らない。
期末に組み立て業者への「押し込み」で多額の利益が計上できたとして、完成品になって帰ってくる時には相殺処理するのでかりそめのものにすぎず、単に「期ずれ」の問題と捉えることも可能である。調査報告書によれば、組み立て業者内の部品在庫は適正水準が5日分であるところ、10年12月末には「押し込み」の結果、1カ月分に上っていたという。確かに過大な在庫ではあろうが、異常といえるかどうかは評価が分かれるだろう。
ただ、調達価格と「マスキング価格」との差が一時期、急速に広がった点は悪意を感じさせるものだ。当初、価格差は1割程度だったとされるが、12年7月から13年3月にかけて一部部品では価格差が4~8倍にも広がっていたという。部品取引をもっぱら期末の利益調整弁にのみ利用していた疑いも残る。
過去の事例との比較
東芝の部品取引と似た過去における粉飾決算の事例を挙げるなら、カネボウにおける不良在庫の“宇宙遊泳”や、IT企業で多発した架空循環取引といえるだろう。それらの悪質さは東芝とは比べものにならない。
“宇宙遊泳”とは決算期の異なる同業者間で不良在庫を売り買いして期末計上を免れるグレーな取引だが、カネボウの場合、そのうちの毛布メーカーとの取引で生じた不良在庫は1年分の販売額を優に超す巨額のものだった。おまけに同社は損失計上を免れるため、実質子会社化した後の毛布メーカーを連結外し工作により隠蔽していた。
IT業界での粉飾決算は、メディア・リンクスやアイ・エックス・アイ、ニイウスコーの事件が代表例だが、それらでは取引の対象物がそもそも存在しなかった。証憑類のやりとりと銀行間の資金移動だけで取引を仮装していたのである。規模も信じられないほどのものだった。売り上げの大半が架空だったからだ。メディア・リンクスに至っては、公表していた売上高の9割超が架空循環取引によるものだった年もある。ニイウスコーの場合、純資産の水増し額は300億円超に上り、実態は50億円を超す債務超過状態にあった。