近頃はやっている「ブランディング」という言葉に、惑わされている人は多いのではないだろうか。
筆者は、各種メディアや講演などで人前に出ることも多い。例えば、新聞社、商工会議所、経営者が参加される講座や講演会もあれば、起業家や個人事業主の方が中心になって参加するセミナーもある。加えて、関西学院大学専門職大学院では教壇に立ち、メディアにも出させていただく機会もあるので多種多様な方々の目に触れる。
一方で、筆者自身が発信するコンテンツは、「マーケティングアイズ代表取締役・理央周」「児玉洋典(本名、関西学院大学准教授としてのみ使用)」という署名で発信する。それぞれ違う立場で、対象になる聴取者に違いはあるけれど、筆者としては同じ理念のもとで発信している。つまり、同じ趣旨の話を異なる層の方々にしていくので、対象者が最も理解しやすい話し方をしたり、対象者の習熟度に合わせてコンテンツの内容を微調整する。
また、筆者自身のイメージも「自分が感じてほしいかたち」で、対象者に受け取ってもらいたい。そのため、プロのパーソナルスタイリストと契約し、自分のスタイリングのコーディネートをお願いしている。
例えば、伝統ある企業や金融業など「お堅い」イメージの参加者が多い場合は、ダークスーツに白いシャツ。逆に、起業家やベンチャー企業が多い場合には少しカジュアルなジャケパン・スタイルにするなど、ファイン・チューンをして臨む。起業家や講演をなりわいにするような「人前に立つ」仕事では、スタイリングの演出による「外見戦略」も、イメージをブランド構築の一助にする効果的な方法である。
ここで重要なことは、「自分がどう見せるか」よりも「対象者からどう見えるか」という点である。自分が主観的に「かっこいい」と思い込んでいても、参加者に響かなかったり、不快感を与えては元も子もないのだ。したがって、自分だけの主観ではなく、第三者でありプロフェッショナルであるスタイリストに、外見戦略として依頼するのである。
注意すべきは、単にはやりの高級な服を選んでもらえばいい、というわけではないということである。まずすべきことは、こちら側の戦略、特にどんなターゲット層を狙っているのかを、徹底的に理解してもらう。その後、対象者に対して好感度を上げる組み合わせや色の配置の方針を決める。ここまできて初めて、ショッピングに同行してもらう。
その際に、自分の好みとポリシーも入れ込んでいく。例えば、スーツのオーダーに同行してもらう時には、「基本的にトラッドが好きだけど、そこにちょっとだけ違う何かを入れてください」という具合になる。
これは一見簡単そうで、実は難しい注文なのだ。筆者が契約をしているスタイリストは、自身の知識と知恵で、さらにいいものに具現化してくれる点が素晴らしい。
まずは「枝=戦略」を固める
さて、ここでブランドの話に戻るが、こうやって外見を整えれば自身(自社)に仕事の依頼が舞い込んでくるかというと、そんなことは絶対にない。仕事の質が高いと理解されて初めて、ビジネスでの問い合わせがくる。
外見戦略というのは、イメージ向上や不快感の除外という、対象者の意思決定における初期部分に貢献するだけで、その後にすべきことは多くあるのだ。
現在はやっている「ブランディングをして売り上げを伸ばそう」などということが成り立つわけもなく、カッコいいロゴをつくったり、見た目だけをよくするのがブランド構築ではない。
樹木を想像してほしい。人から葉や花は見えている。一方で、地面から下に生えている根は見えない。葉を茂らせるためには、根がしっかりしていなければならない。同様に、目に見える外見、つまりブランディングは地面の上の葉に当たる。根っこに当たる、自分を「誰に」「どう」見せたいのかという「戦略」がしっかりしていないと、目に見える部分「戦術」が伝わらない。
まずすべきことは、ブランディングのような戦術論ではない。目的を達成するための方針、つまり戦略を固めることが重要である。
(文=理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)