3社合計の株主数は100万人に達する可能性があり、トヨタ自動車の2倍の規模。時価総額は10兆円を突破し、ソフトバンクグループや日本たばこ産業を上回り、市場に与えるインパクトは大きい。
「政府は最低でも6兆円の時価総額を確保したいが、無理に株価を高くして投資家が郵政アレルギーになっては困ると考えている」(金融筋)
3社の上場にあたり、野村證券やゴールドマン・サックス証券など国内外の11社が巨大な幹事団を結成した。販売体制は地方の証券会社やインターネット証券会社など90社程度に膨らむ。オールジャパン体制で上場を後押しする。
しかし、西室氏が現在も相談役を務める東芝の不正会計問題、中国リスクに加えて9月には米国の利上げも考えられる。外国人投資家の日本株買いの意欲は急激にしぼんでいる。そのため、21世紀最大といわれるような超大型の新規上場をするには時期が悪すぎるという見方も急速に広まっている。
NTT株の二の舞か
上場して民間企業になるのだから、さまざまな「縛り」の解消を要求する動きも出ている。
自民党は、ゆうちょ銀行の貯金限度額を現行の1000万円から2段階で3000万円に引き上げるよう提言した。さらに、かんぽ生命の加入限度額も現行の1300万円から2000万円に増額する方針を打ち出した。これに対し金融業界は揃って「民業圧迫」と猛反発している。
日本郵政グループは純利益4826億円のうち93%を金融2社に依存している。6200億円を投じてオーストラリアの物流大手トール・ホールディングスを買収したのは、「成長戦略不在」との批判をかわす狙いがある。「金融2社を完全に民営化すれば、日本郵政は抜け殻だけになる」(金融筋)と揶揄する声もある。上場に当たり、日本郵政は10年後の自社の具体的な青写真を早々に示す必要に迫られている。
市場筋の間では、NTT株の再来と囃し立てられている。1987年上場のNTT株は公開価格119万7000円に対し、上場初日は値がつかず、翌日ストップ高の160万円で初値を形成し、2カ月余りで318万円まで高騰した。NTT株の公開は、バブル相場の初期に個人投資家を一気に拡大する起爆剤となった。
ただし、その後のバブル崩壊とともに、NTT株は長らく低迷状態が続き、近年大幅な上昇を演じたものの、権利落ち換算の実質ベースで依然株価は初値(160万円)には届いていない。
大手証券会社はNTT株の上場を「株式投資の大衆化」の突破口に使い、メディアもこぞって購入を囃し立てた。そのため、個人投資家は証券会社の店頭に行列をつくってまで先を争ってNTT株を買ったが、結局「ババをつかまされる」結果となった。
日本郵政の大型上場がNTTの二の舞にならないという保証はどこにもない。上場前の最後の決算となる15年4~6月期決算の連結純利益は、前年同期比2%増の1426億円。収益の柱である金融2社は金利低下で運用収益が低迷。郵便・流通事業の赤字も解消できていない。
(文=編集部)