新生銀行は8月8日、筆頭株主の米投資ファンド、JCフラワーズが保有株の大半を売却すると発表した。
JCフラワーズは、社外取締役のクリストファー・フラワーズ氏が運営する投資ファンド。フラワーズ氏本人や関連ファンドの「SATURN」などの保有株を含め、2019年3月末時点で新生銀行の発行済み株式の21.37%を保有している。そのうち最大で17.61%相当の4562万株を国内外の証券会社を通じて売り出した。
売り出し価格は1株1387円で、売却総額は約630億円となる。受け渡しは8月27日。同日付でフラワーズ氏は新生銀行の社外取締役を退任した。
新生銀行によると、主に海外の資産運用会社や国内の個人投資家が購入したという。JCフラワーズが株式を売却したことで、預金保険機構と整理回収機構と合わせて18.11%を保有する政府が筆頭株主となった。
新生銀行の経営の最大の壁は、公的資金の返済ができていないことにある。公的資金を注入された大手銀行のなかで、りそなホールディングスやあおぞら銀行の株式は優先株のため、政府と相対で分割返済できた。新生銀行の場合は普通株に転換されているため、株価の低さがネックになり、公的資金の返済のメドは立っていない。
政府は新生銀行に2100億円の公的資金をつぎ込んだ。税金を投入するからには、ある程度の利益を上乗せして返してもらう必要があり、5000億円という目標額を設定した。1506億円は新生銀行が返済済みで、今も約3500億円分が未返済のまま残っている。政府の保有株数で割ると、1株当たりの価格は7450円。足元の株価は1454円(8月30日終値)。5倍以上の株価にならないと、政府が確保したいと考えている目標金額に達しない。完済は絶望的だ。
「メガバンクや地銀と同じことをする銀行になっても意味がない」として、新生銀行は信販会社のアプラス、消費者金融のシンキとレイクなど、個人向け金融会社を中心に買収を重ね、個人金融取引にシフトした。しかし、貸金業法改正による過払い利息返還などで多額の損失を計上。08年のリーマンショック直後に2期連続の赤字を出したこともあり、公的資金を返済できなかった。
あおぞら銀行はほとんど大型買収をせず、着実に利益を積み上げ、公的資金を返済した。公的資金の返済をめぐる対応は、新生銀行とあおぞら銀行は対照的で、はっきりと明暗を分けた。今後は、筆頭株主となる政府主導で新たな受け皿探しを含めた経営再建策を練ることになる。
新生銀行は5月15日、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」への不正融資事件を起こしたスルガ銀行と業務提携した。当初、金融庁はスルガ銀行のスポンサー候補として、りそなホールディングスを想定していたが、りそなが早々と離脱。どうしても「銀行」の名を冠したところに支援を託したい金融庁側の思惑が絡み、新生銀行に白羽の矢が立ったとされる。
新生銀行は大手銀行のなかで唯一、公的資金を返済できないという、スネに傷を抱えている。金融当局の要請に添い、恩を売りたいとの思惑があるのは間違いない。新生銀行はスルガ銀行の“救世主”になることに前向きだ。
「レイクの新生銀行と住宅ローン(かぼちゃの馬車)のスルガ銀行は業態がそっくり。どちらも“サラ金”だ。親和性がある」と、大手地銀の頭取は辛辣な見方をする。
「元祖ハゲタカ」のフラワーズ氏
新生銀行の前身である日本長期信用銀行は、1998年10月に経営破綻し、一時国有化された。国は8兆円近い公的資金を使って不良債権などを処理、旧長銀株の大半を譲渡した。
2000年3月、米投資会社のリップルウッドホールディングスを中心とする国際金融シンジケートが、わずか10億円で買収した。社名を新生銀行に変更し、1200億円の増資を引き受けた。つまり、国民の税金が約8兆円投入された銀行を、たった1210億円で手に入れたわけだ。
04年2月、旧長銀は新生銀行という新しい名前で再上場を果たす。国際金融シンジケートは一部の株式を売却して2300億円の現金を手にしたほか、約1兆円の含み益をキープした。
長銀買収をリップルウッドとともに主導したのが米投資会社JCフラワーズのクリストファ-・フラワーズ氏だ。リップルウッドはティモシー・コリンズ氏がゴールドマン・サックス(GS)出身のクリストファー・フラワーズ氏と共同で設立した投資ファンドだ。「実態はGSの別動隊」(国際金融筋)と取り沙汰された。日本政府のアドバイザーだったGSが長銀の売却先に推薦したのが、直前までGSの共同経営者だったフラワーズ氏がつくったリップルウッドだったため、「出来レース」(同)と酷評された。
その後、フラワーズ氏は新生銀行の取締役に就き、「元祖ハゲタカ」の異名を轟かせた。同氏が率いるJCフラワーズは08年1月、TOB(株式公開買い付け)と増資を引き受け、新生銀行株の32.5%を保有する筆頭株主となった。
新生銀行は、フラワーズ氏の銀行となった。フラワーズ氏は報酬委員会の委員長として、自分を含めた取締役の報酬を決めていた。赤字なのにフラワーズ氏以外の4人の外国人の役員が1億円以上の報酬を得ていたことで批判を浴びた。「指名委員会も牛耳り、新生銀行を私物化してきた」(前出の国際金融筋)との見方もある。
金融庁が10年3月期から1億円以上の報酬を得た取締役の情報開示を義務づけた狙いのひとつは、赤字なのに法外な報酬を得ていた新生銀行の外国人役員の首をとることだったといわれている。亀井静香金融担当相(当時)は、新生銀行が2期連続で巨額な最終赤字を計上しているにもかかわらず、役員は高額な報酬を得ている実態に照らし、「外国人役員の報酬が1億円を超えている。べらぼうな金額だ」と糾弾した。
1億円以上の役員報酬を得ていた4人の外国人執行役は、揃って10年6月の株主総会で退任した。同じく退任した八城政基・会長兼社長の年間報酬は850万円にすぎなかった。新生銀行は“外国人天国”であった。
フラワーズ氏は再上場でボロ儲けしただけではなく、取締役として役員報酬、株の配当でも大きな“果実”を得たはずだ。新生銀行は配当性向が高いことで知られている。
フラワーズ氏には二度、株式を売るタイミングがあった。一度目は、新生銀行とあおぞら銀行の合併を金融庁主導で進めた時。10年10月に合併を発表したが、あおぞら銀行が嫌がって頓挫した。
二度目はここ2~3年。「フラワーズ氏は新生銀行から本気で足抜きしたがっていた。同氏のファンドに資金を出している投資家の意向もあり、新生銀行を手仕舞いし、資金をほかに振り向けたがっていた。そこで、中国の投資家にはめ込もうとしたが、うまくいかなかった。今回、20年という節目で縁を切った」(M&A業界に詳しいアナリスト)。
フラワーズ氏がいなくなった新生銀行はどうなるのか。金融庁はフラワーズ氏がいなくなってやりやすくなる。むしろ、フラワーズ氏がいなくなるのを待っていたフシがある。まずは、行政指導で役員報酬を減らすなど身を削らせ、その次の段階として再編。スルガ銀行との資本提携に進むのか。それとも有力地方銀行と手を結ぶのか。
「新生銀行の行員は人材として悪くないし、かつて長銀として債券を発行していた。銀行の銀行として、地銀の持ち株会社になるという道もある」(有力地銀の頭取)
はたして、金融庁は新生銀行をカードに、地銀再編のシナリオを描くことができるのだろうか。
(文=編集部)