キャリアは既存資産を活用した選択肢の提示を
さらに言うならば、現在のような携帯電話市場環境が出来上がったのも、ユーザーが充実したインフラとサービスを求め、高性能な端末を安価に手に入れることを選んだ結果なのだ。例えば、毎月の基本料が下がる代わりに端末の割引がなくなり、iPhone 6sがSIMフリー版の定価(8万6800円~)にまで高騰することを多くの消費者が望んでいるかというと、決してそうではないだろう。そうした消費者の動向を無視してまで、基本料を下げることだけにまい進するのが正しいのかというと、疑問がある。
とはいえ、携帯電話キャリアの側も、大手3社に集約されたことによる“3すくみ”状態がサービスの硬直化を生み出し、キャリアが提示する以外の選択肢を実質的に奪う方向に向かっていたのは事実だ。例えばドコモは「カケホーダイ」の導入後、それ以外のLTE対応料金プラン契約者に対し端末代の割引をしないようにしたことで、実質的にLTE利用者はカケホーダイへの移行が必須とした。そのことが、通話し放題が必要ない、データ通信を重視するユーザーから反発を買う結果にもなっている。
こうした傾向もあることから、キャリア側もより多くの選択肢を用意する必要があるのではないかと感じる人も多いことだろう。
だがその選択肢は、実は既存の資産を活用するだけでも実現可能なものなのだ。実際、ソフトバンクはワイモバイル、auはUQコミュニケーションズといったように、低価格でスマートフォンを利用できるサービスを提供するサブブランドや関連企業を持っている。またドコモの場合、同じNTTグループのNTTコミュニケーションズがMVNOとしてモバイル事業を展開している。そうしたグループ内の資産を上手に活用すれば、より安価な料金を求める消費者に対し、多様な選択肢を提示すること自体、現時点でも不可能ではないのである。
キャリアが安易に値下げすることは、サービスの中身、さらには携帯電話産業全体に与える影響が決して小さくないものであるし、消費者がそのことを真に求めているとは限らない。それだけに、総務省の料金に対する介入には、相当な慎重さが求められるところだ。しかしながら今回の提案は首相からのものであるだけに、総務省がこれまで以上に踏み込んだ要求を打ち出してくる可能性も否定はできないだろう。
それだけに、キャリアには収益性を大幅に悪化させることなく、消費者に多くの選択肢を、今まで以上に分かりやすく提示するための工夫や努力が求められる。今後の話し合いによって、総務省がどこに“落としどころ”を見つけてくるのかはわからないが、大手キャリアにとっては試行錯誤の日々が当面続くといえそうだ。
(文=佐野正弘/ITライター)