居酒屋大手のワタミは10月2日、介護事業を損害保険大手の損保ジャパン日本興亜ホールディングスに210億円で売却することを正式に発表しました。ワタミは1980年代、現参議院議員の渡邉美樹氏が創業して以降、その経営手腕で拡大を続け、上場企業にまで上り詰めました。
ところが、最近では消費者の「チョイ飲み」や「宅飲み」需要の高まりで本格的な居酒屋が敬遠されるようになったことに加え、ワタミでは従業員を過酷な環境で働かせていると「ブラック企業」の烙印を押されてブランドが大きく毀損した影響で、客足が遠のいて業績が急下降。2014年3月期には上場以来初めて49億円の最終赤字に転落。また、翌15年3月期にはさらに赤字幅が拡大して129億円を記録します。
この未曽有の経営危機を乗り切るために繰り出したウルトラCが、今では稼ぎ頭にまで成長した介護事業の売却であり、ワタミにとっては背に腹は代えられない最終手段だったといっても過言ではないでしょう。
それでは、ワタミは一体、どれほどの危機的状況に陥っているのでしょうか。
今回はワタミの直近の決算書を分析しながら、経営の危険度を検証してみたいと思います。
現預金残高は危険水域
まずは現預金残高から見ていくことにしましょう。
倒産というのは「現金が底をつくこと」と同意です。現金が底をつかなければ、どんなに巨額の赤字を計上しても倒産することはありませんし、現金が底をついてしまえば、どんなに黒字を計上していても倒産の憂き目に遭うことになるのです。
たとえば、直近の15年6月30日現在でワタミの現預金残高は53億円となっています。同年3月31日には95億円ほどの残高がありましたので、ここ3カ月で40億円以上ものキャッシュが流出したことを意味しています。
また、ワタミの年商は1500億円程度なので、月商に換算すると125億円となります。
つまり、現状ワタミの現預金残高は月商の半分以下、具体的にいえば2週間分の売り上げ程度という水準であり、極端に少ないといっても過言ではありません。
ちなみに、同じ業態では、最近急成長している鳥貴族は月商が16億円に対して48億円(月商の3カ月分)、大庄は月商45億円に対して114億円(同2.5カ月分)であり、その水準を比較するといかにワタミの現預金残高が少ないかが浮き彫りとなります。
大きな負債負担
続いて負債を見ると、銀行からの短期と長期借入金を合わせると330億円に達しています。
特に問題は、短期借入金が164億円と同社の流動資産をも大きく上回っている点です。万が一、銀行が期日の到来した短期借入金の借り換えを承認しなければ、現状の現預金残高53億円では借入をすべて返済することができずに、経営を断念せざるを得ない状況に追い込まれてしまうということになります。