加えて、ワタミにとって予断を許さないのが、50億円にも及ぶ介護施設の入居金返還債務の財務制限条項です。
財務制限条項は「コベナンツ」とも呼ばれ、銀行の課した条件を融資先企業がクリアできなければ期限の利益を喪失し、銀行は即座に債権を回収することができるという厳しい取り決めです。
介護施設の入居金返還債務に関して、ワタミの決算書には次のような2つの条件が記載されています。
(1)純資産の金額は2012年3月期の75%を下回らないこと
(2)2期連続で経常赤字を出さないこと
ワタミは15年3月期の決算で大きな最終赤字を計上した影響で、すでに(1)の条件をクリアすることができませんでした。本来はこの時点で銀行は50億円の債権に関して即座に回収を図るところですが、ワタミは銀行との交渉で(1)の条件を「15年3月期の100%以上に維持する」と緩和することで合意して返済を免れています。
ただ、これ以上の猶予は金融機関にとってもリスクが高くなることを考えれば、ワタミとしては、今期赤字を計上して、純資産を減らすことは許されない状況になっているといえるでしょう。
このようにワタミには、負債面からも銀行のプレッシャーが重くのしかかっているのです。
自己資本比率はマイナスに陥る一歩手前
それでは最後に、企業の安全性を測る自己資本比率をみてみましょう。
ワタミは最終利益段階で、14年3月期には49億円、そして15年3月期には126億円の赤字を計上し、これまで積み立ててきた利益剰余金が大幅に減少しています。
15年6月30日時点では、48億円とかろうじて繰越損失は免れている状況ですが、自己資本比率はついに6.2%まで低下。この自己資本の水準は、鳥貴族の41.6%、大庄の52.6%に比べると極端に低く、いかにワタミが他人資本に頼った経営を強いられているのかが浮き彫りとなります。
つまり、ワタミはもし介護事業部門を売却して利益を出さなければ債務超過に陥る一歩手前であったということであり、自己資本で経営を再建する余力はなく、かなりの窮地に陥っていたことが如実に伝わってくるのです。
経営危機を脱する打つ手はあるのか?
それでは、ワタミはこの危機的状況から抜け出すためには、どのような手を打てばいいのでしょうか。まずは大きな視点で、連結ベースの利益面から見てみましょう。
15年4月から6月の3カ月間、営業利益段階で10億円の赤字を計上しています。つまり、ワタミは現状営業を行えば行うほど損失が積み重なる体質になっているのです。これは売上に対して、人件費や賃料などの固定費が大きな負担になっていることが窺えます。ですから、さらに不採算店を洗い出して整理するか、業態転換を図って止血を行わなければならないでしょう。