「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
10月1日は「コーヒーの日」だったが、日本国内にコーヒーを提供するカフェの数はどのぐらいあるかご存じだろうか。
正解は約7万店――。調査資料では、1981年の15万4630店(総務省統計局「事業所統計調査報告書」より)をピークに減少し続け、最新の2012年の数字は7万454店となっている(同局「平成24年経済センサス―活動調査」より)。
数字だけ見ると半減しているが、全国に5万3208店(15年8月現在。一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会=JFAの加盟店数)もあるコンビニエンスストアなど、コーヒーを提供する店は多岐にわたり、個性的なカフェも増えている。
たとえば9月26日に放送終了したNHK連続テレビ小説『まれ』は、主人公が世界一のパティシエを目指し奮闘するストーリーだったが、パティシエが店の人気を支えるカフェもある。「小学生女子がなりたい職業」調査でも毎回上位に顔を出す人気職業だ。
そこで今回は、家業を継いだ女性がシェフ・パティシエールとして店を飛躍させた、創業50年を超えるカフェの人気を分析してみたい。
「喫茶店の娘」が一念発起して渡仏し、パティシエールに
「カフェタナカ」という店が愛知・名古屋市北区上飯田にある。場所は地下鉄・上飯田駅から徒歩5分ほど、周辺は住宅地だが高級住宅街ではなく庶民的な場所だ。
創業は1963年で、画廊に勤めていた現社長の田中寿夫氏が同市千種区で開業し、数年後に現在地に移った。「当時、周辺は田んぼだらけ。周囲からは『こんな場所で喫茶店をやるのか』と笑われました」(田中氏)。
だが、サイフォンやネルドリップで淹れるコーヒーにこだわり、絵画も楽しめる「コーヒータナカ」(当時の店名)は、周辺が宅地化する以上に発展していった。
その成功要因のひとつが独自性だ。試行錯誤して開発した自家焙煎コーヒーが喫茶好きの名古屋人に支持された。低価格競争も行わず、ご当地名物でコーヒー1杯の値段でトーストやゆで卵がつく「モーニングサービス」も一切取り入れたことがない。その代わりに、出勤前のお客に向けて朝の7時から営業するのがコーヒータナカのモーニングサービスだったという。
コーヒータナカとしての最盛期には、座席数が約60席の店に1日に600~700人のお客が来店した。直営店も7店に拡げたほどだった。
『吉田基準』 独自の経営と高品質のものづくりを実現するために、外部の職人さんを含めた「吉田カバンの人々」が、どのような考えにもとづいて、どういったやりかたで仕事をすすめているのか、トップ自ら披露していきます。ものづくりに携わる人だけでなく、仕事の成果や質を高めたいビジネスパーソン必携の一冊です。