「飲食店部門の顧客満足度で、しゃぶしゃぶの木曽路が7位でモスバーガーが1位というのは、無理がある。来店客数に絶対的な差があるからだ」(7月12日付本連載記事「モスが顧客満足度1位なんて本当か?」)
しかし、今回のQBハウス1位には文句の付けようがない。というのは、2位となったのが昨年1位だったプラージュ(阪南理美容株式会社)という、こちらは全国に650店を展開する日本最大規模の理美容店チェーンだからだ。
世界を目指すブルー・オーシャンモデルか
カット専業としてユニークな業態を確立したQBハウスは、『ブルー・オーシャン戦略』(W・チャン・キム他/ランダムハウス講談社/05年刊)に取り上げられた。
私は同セオリーを拙著『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(ぱる出版/13年刊)で、「青い鳥幻想を広げた最悪のセオリー」と批判した。そしてその年、私のセミナーで『ブルー・オーシャン戦略』が称揚した企業事例の「その後」を検証してもらったら、唯一「しっかり生き残っています」と報告されたのがQBハウスだった。
そして今年9月に至り、『新版ブルー・オーシャン戦略』が刊行され、それは私のような立場からの論難への言い訳に満ち満ちている大冊となっている。そこで鬼の首を取ったかのように称揚されているのが、QBハウスの「その後“も”躍進」事例だ。
原書で著者たちが掲げた「ブルー・オーシャン」は、「競争のない市場空間を切り開き」、その状態は10-15年続くという荒唐無稽な桃源郷だった。QBハウスに競争、競合がないわけではない。前述したプラージュでは1400円で「ヘア・カット+シャンプー」の価格を押し出している。私の自宅最寄り駅にもQBハウスがあるが、駅周辺の理髪店は1500円~1800円でシャンプーと顔剃りも施される総合調髪を提供している。つまり、QBハウスが出店した当該地域市場の価格を引き下げているのだ。
これは、チャン・キム氏らが主張する「ブルー・オーシャン」的な成り行きではない。戦略セオリー的には、単純に「イノベーター」とそれに追随する「フォロワー」と説明できる。「フォロワー」が出現すると、先行した「イノベーター」のほうがそのビジネス・モデルではデファクト・スタンダード(事実上の標準)としての認知を高めるので、有利なポジションを強化できるという現象だ。