だが、藤田の温情経営は、組織の機能不全をもたらしてしまった。「藤田さんが決めてくれる」。カリスマ藤田に依存するという甘えの構造となった。原田は「一代で4000店近くまで店舗網を広げた能力は素晴らしい」と口先では藤田に敬意を表したが、やることは藤田とはまるで正反対。究極のトップダウンで、米国式経営へと一直線に突き進んだ。
「組織を変える」と宣言してから、実際の人事異動までに要した時間はわずか3日間。日本企業以上に日本的といわれた日本マクドナルドという会社を、3日でグローバル企業に変貌させたのである。
ところが、今年は米国流の原田の手法が、さっぱり通じなくなった。確かに既存店の客足は伸びた。しかし、客単価は下がりっぱなし。その結果、売り上げが落ちたのだ。
バーガーの100円キャンペーンで客足は戻ったが、売れるのは100円バーガー、120円バーガーばかり。クォーターパウンダーやビッグアメリカシリーズといった高い価格のバーガーは売れなかった。これが、既存店売り上げが8カ月連続で前年割れになった最大の原因である。
マクドナルドの業績が前年割れを続けている理由として、よく引き合いに出されるのが、惣菜やサンドイッチの扱いを充実させたコンビニエンスストアに客を奪われたという説だ。しかし、マクドナルドの客数は伸びている。だから、この説はあたらない。
理由は、はっきりしている。若い客が財布の紐を固く締め、高いバーガーに目もくれなくなったということだ。彼らは収入が増えない。スマートフォンなどの通信費はばかにならない。食費を削るしかないのだ。若者の生活防衛意識が強まっていることが、日本マクドナルドの業績に影を落としている。
原田は低価格商品で客を呼び込み、高価格商品に目を向けさせて稼ぐ手法で成功を収めてきた。しかし、今年は値段の高いバーガーやコーヒーがヒットせず、既存店の売り上げが目減りした。
原田は11月上旬に開いた第3四半期決算説明会で、これまでの値下げ戦略を撤回し、採算のよいビッグマックなど基幹商品の販促に経営の舵を切る、と宣言した。
8年間続けてきた商品戦略の大転換を意味する。これだと100円バーガー、120円バーガーがお目当ての子供連れや中高生の客を逃がすことにならないのか。
13年の既存店の売り上げ、客数、客単価の推移が、原田の戦略転換の成否を占う目安となる。(敬称略)
(文=編集部)