変わった優先度
そもそも、2050年以降とはいえ、世論が原発の新設を容認するかは、大きな疑問だ。相次いで原発先進国が高速増殖炉の開発を断念する中で、国産技術の開発にこだわる重要性が薄れたとの判断も働いた。
当時、委員長代理として原子力委員会見解のとりまとめを主導した鈴木達治郎氏(現長崎大学核兵器廃絶研究センター長兼教授)は、「福島原発事故以降、研究開発全体の優先順位が変わり、根本的な見直しが必要になった。福島の廃炉や廃棄物処分、将来の人材確保など、高速炉・核燃料サイクルより優先順位の高い課題は多い」と、研究者の布陣見直しの重要性を強調する。
今回、原子力規制委員会はさらに踏み込んで、日本原子力研究開発機構にレッドカードを出し、もんじゅの運営主体の交代を勧告した。機構は、ナトリウム漏洩事故を起こした「動力炉・核燃料開発事業団(動燃)」を改組した「核燃料サイクル開発機構」と、「日本原子力研究所」の2つが統合された機関である。現実問題として、日本には日本原子力研究開発機構に代わる運営主体など存在しないだろう。機構は日本で唯一の原子力に関する総合的研究開発機関だからだ。
また、もんじゅは研究施設であり、商用施設ではない。このため民間の電力会社が運営するのは難しい。もんじゅの最大出力は28万キロワットで、100万キロワット級が中心の商用炉に比べて小規模で採算がとりにくいことも影を落としている。
そんな八方塞がりを承知で、原子力規制委員会が文科省に与えた猶予は「概ね半年程度」と短い。その間に、機構に代わる運営主体を特定するか、「もんじゅという発電用原子炉施設の在り方を抜本的に見直す」ように迫っているのだ。規制委員会の田中委員長は馳文科大臣に勧告を手渡す際に、「そう簡単にできるものではないと思いますが」と申し添えたという。この発言を勘案すると、原子力規制委員会はもんじゅの廃炉が必要だと考えているのだろう。
色褪せた国策
これに対して、安倍首相は11月11日の国会の閉会中審査で民主党議員の質問に対する答弁に立ち、「(もんじゅを)国際的な研究拠点と位置付けている。速やかに課題解決に対応すべきだ」と述べ、もんじゅの存続に強い意欲をみせた。半世紀前に決めた高速増殖炉開発という色褪せた国策を、引き続き金科玉条として守り続ける構えなのである。