老朽化して原発事故のリスクが高いので、安全性の観点から廃炉を決めたというわけではない。廃炉と運転延長のどちらが得かを計算した結果だ。関西電力は美浜1、2号機の廃炉を決定した理由について、「安全対策工事に5年程度かかり、工事費もかさむ。原子炉等規制法上、最長の20年間、運転延長が認められたとしても、残り15年間で採算を取るのは難しい」と説明している。新基準に基づく原子力規制委員会の安全審査をクリアするには、1基当たり100億円程度の対策費がかかるが、美浜1、2号機は出力も小さいため関電は採算が取れないと判断して廃炉を決めた。
採算ラインは出力80万キロワット以上とされており、関電は80万キロワット以上の出力を有する高浜1、2号機と美浜3号機については、運転延長を申請した。いずれも出力が82.6万キロワットで、採算が取れると判断した。今後「40年ルール」に到達する大飯1、2号機も出力が117.5万キロワットと大きいため、運転延長を申請するとみられている。
経済産業省は3月、老朽原発を廃炉にした際、電力会社に損失が発生しないようにする会計制度を施行した。東京電力福島第一原子力発電所事故翌年の2012年、経産省は原発を再稼働せずに廃炉と決めた場合の電力会社の財務内容を試算した。それによると、電力会社10社のうち4社が資産より債務が多い債務超過に転落することがわかった。
債務超過になるのは北海道電力、東北電力、東京電力、日本原子力発電の4社。廃炉にすると決めると、これまで資産だった原発の価値がなくなるため、資産の目減りを損失として処理しなければならず、大きな赤字を一気に抱えてしまう。債務超過になると、社債発行による資金調達や銀行からの借り入れが難しくなり、経営が立ち行かなくなる恐れがある。
会計制度の変更
そこで経産省が考え出したのが、電力会社が原発を廃炉にする場合、一度に巨額の損失を出さなくて済むようにすることだった。廃炉費用や、原発の価値がゼロになるのに伴う損失を、長い期間かけて分割して決算処理する仕組みが編み出された。従来の会計制度では、原発を廃炉にすると資産価値がゼロになり、1基当たり約210億円の損失が発生する見込みだった。新たな制度では、廃炉によって発生する損失を10年間に分割する。
問題となっているのは、廃炉費用を電気料金に上乗せして損失を回収できるようにしたことだ。廃炉費用は消費者が負担する。
経産省が、新会計制度を利用して廃炉にすると想定していた老朽原発は7基。5基は決定したが、残る2基は関電の高浜1、2号機とされる。だがともに出力が82.6万キロワットであり、関電は採算が取れると判断して運転延長を申請した。今後、その承認をめぐり、経産省と関電の間で綱引きが繰り広げられることになる。
(文=編集部)