元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな元国税庁長官は「佐藤さん」です。
一般にはあまり知られていませんが、国税局の職員には採用区分による違いがあります。それは「専科」と「普通科」です。簡単に言うと大学卒と高校卒ですが、それぞれ異なる試験を受けて採用されています。
大卒は国税専門官試験、高卒は税務職員採用試験を受験して、好きな国税局に希望を出し、採用されれば内定の電話がかかってきます。試験問題も、国税専門官試験はいわゆる「公務員試験」で、SPIより難度の高いものに法律などの専門科目を加えた試験です。税務職員採用試験は、SPIより難度の高いものと適性試験があります。
高卒で採用されると、1年間の研修があり、そこで税法や国家公務員としてのルールを学びながら共同生活をします。修了する頃には立派な国税局職員、というわけではないですが、それなりに税務に詳しくなっています。
専科も普通科も期別が存在するので、その数字で先輩か後輩かを判断されることになります。ただ、調査時に調査員が専科であるか普通科であるか、そして期別を名乗ることはありませんので、知りたい場合は、市販されている「職員録」でなんとなく確認することになります。どちらがより調査がうまいとか、怖いとか、高圧的だとか、良い人であるとか、そのような“傾向”はありませんが、経験が少なければ少ないほど、ミスを見つけられないので、納税者にとっては有利になるといえるでしょう。
専科では、数年の勤務の後に「専科研修」という高度な研修があり、税法や判例についての知識を身につけることになります。また、この研修期間中には試験があり、試験の結果で上位5%に入ると「金時計」と呼ばれ、その後のキャリアが輝く可能性が高くなります。
専科と普通科の間には俸給などで差がありますが、「本科研修」を受けることで、普通科は専科と同じ扱いを受けるようになります。本科研修を受けるためには、厳しい試験をパスしなければならず、通常の勤務を行いながら勤務時間後や休日に試験勉強をすることになります。しかし、国税局内で充実した仕事をしようと考えれば、受験して当然の試験といえます。
普通科と専科の軋轢
普通科と専科の間には、若干の溝のようなものがあって、普通科を下に見る専科の人間もいますし、専科に対抗意識を燃やす普通科もいます。ぼくは、そういった差別意識や区別はありませんが、特に否定もしません。専科からも普通科からも、差別による直接の被害を被ったことはありませんでした。
大卒で採用されると、数年後に「調査官」という役職になり、最短で35歳のときに「上席」になります。この上席は、普通科でも専科でも、定年までには確実に上がることができますが、その上の統括官になれないと「万年上席」などと若手に揶揄されます。特に、専科で上席のままの場合、上昇志向の強い若手の大卒職員から影でいじられることがあります。出世しようがしまいが、その人の人間性とは関係ありませんが、悲しいことに公務員というのはそういう部分があるようです。退職して、いまだに税金を使って生活をしているぼくも、現役の方から見ると、腫れ物のような存在なのかもしれません。
国税局は、3年以内の離職率が国家公務員のなかでもっとも高いという、不名誉な事実があります。確かに、ぼくの同期もたくさん辞めてしまいました。しかし、23年続けると、税理士になれるというご褒美があります。
税理士試験というのは、膨大な税法を暗記して、11科目中5科目の試験にパスすれば合格するという、平均合格年数が7年の難しい試験です。しかし、税務の専門家である国税局の職員は、働き続けるだけで試験が免除されます。定年退職後に税理士になる方もおり、おじさんたちの生活の糧となっています。
税務調査の結果には、調査官の経歴や知識、性格がとてつもなく影響します。敵を知り、自分を知ることで、きっと有利に進められますので、情報収集は欠かさないようにしましょう。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)