女性アイドルの冠番組といえば、芸人がMCを務め、アイドルたちがひな壇トークをしたりさまざまなチャレンジをしたりする――という穏やかなバラエティー番組が一般的だろう。典型例は、この9月で長きにわたる放送を終えたAKB48の『AKBINGO!』(日本テレビ系)、現在も放送中である乃木坂46の『乃木坂工事中』、欅坂46の『欅って、書けない?』(共にテレビ東京系)かもしれない。
しかし今、そんな常識を覆すアイドル番組が放送されている。それは、毎週月曜深夜1時からテレビ東京系列で放送されている、『AI・DOL PROJECT』(エーアイドルプロジェクト)なる番組である。社会問題に切り込むこの番組の姿勢があまりにも“本気すぎる”と、一部アイドルファンの間で話題なのだ。
2019年4月より放送が開始された同番組は、モーニング娘。’19やアンジュルム、Juice=Juiceなどが所属するハロー!プロジェクトのアイドルたちがメインとして出演しており、公式サイトではその内容を以下のように説明している。
〈ハロプロメンバーが、AIロボットの“ハロボくん”と一緒に
最先端の技術を駆使して社会問題に取り組んでいる現場を直撃!
様々な体験を通じて、現代の最新の技術を学んでいく番組です。〉
この説明の通り、ひな壇トークがあるわけでも楽しい遊園地ロケがあるわけでもない、この『AI・DOL PROJECT』では、毎週2人のハロプロメンバーが、社会問題に取り組む企業などを取材。実際にどんな問題があり、どんな取り組みがなされているのかを現場で体験し、レポートしていく。通常、アイドルがテレビ番組で社会問題に取り組むなどといえば、地震体験の模擬装置でアイドルらがキャーキャー言ってみせたり、スタジオに識者を呼んでクイズ形式で社会問題をお勉強してみせたり……が一般的だろう。ところがこの『AI・DOL PROJECT』は、ミョーにガチ。バラエティー色は皆無の、完全なる“社会派”なのである。
アイドル番組とは思えぬ重々しさ
たとえば10月14日放送回では、つばきファクトリーの山岸理子と新沼希空が「空き家問題」に取り組む企業を取材。実際に30年間放置されているという空き家を訪れたほか、100円で空き家を販売するサービスを紹介した。
また10月28日放送回では、BEYOOOOONDSメンバーの平井美葉と里吉うたのが、「ペットの殺処分」の問題についてレポート。飼い主を失ったペットを保護する施設やペットの里親を探すための保護猫カフェなどを訪れた。しかしこの保護施設、かつては殺処分施設だったときちんと明かされる。
さらに11月11日放送回では、Juice=Juiceメンバーの高木紗友希と稲場愛香が、女性の貧困問題についてレポート。ギリギリの収入で生活するシングルマザーや、奨学金を受給しながら大学4年間の全学費と生活費をみずから働いてまかなったという大学生などの貧困当事者と対面。当事者女性3人のうち1人には顔にモザイク処理がなされており、アイドル番組とは思えない重々しい雰囲気で番組が進行したのであった。
そのほかにも、「高齢ドライバー問題」「スマート農業」「働き方改革」「フードロス」「海洋汚染」「無縁墓問題」「テロ対策」「物流クライシス」など、現在社会が抱える社会問題が俎上に載せられてきた。しかも、出演者は基本的に、ハロプロアイドルと当該社会問題の当事者や研究者のみ。通常、例えばNHKなどでアイドルが出演して社会問題を扱うとなれば、トークの達者な元アイドルや局アナなど、知識・経験が豊富で“場も回せる”大人が司会進行役につくのが一般的であろうが、この『AI・DOL PROJECT』では、決してトーク慣れもしておらず知識もまだ豊富ではないであろう10代の現役アイドルたちだけで、番組が進行していくのである。
アイドルらしい面は皆無
モーニング娘。がテレビ東京『ASAYAN』内の企画がきっかけで結成されたという縁もあり、テレビ東京ではハロプロ関連の番組が、当時から現在に至るまで20年近くの長きにわたって放送され続けている。これまでは、アイドル活動に密着したりスタジオライブを披露したりなど、アイドル番組らしいアイドル番組が連綿と続いてきた。しかしこの『AI・DOL PROJECT』は、メンバーのフリートークもスタジオライブも一切ナシ。まさかの“ガチ社会派”番組としてスタートしたのである。
この番組は、ハロー!プロジェクトが所属するアップフロントグループのアップフロントワークスの一社提供。つまり普通に考えれば、ハロプロアイドルのためのプロモーション枠であるはず。なればこそ、このあまりにも社会派な内容に、視聴者は違和感を覚えざるを得ないのだ。
「かつても、ハロプロメンバーが農業やアウトドアに挑戦する『ハロー!SATOYAMAライフ』(2012年6月〜2013年12月)という教養系の番組が放送されていたこともありましたが、農業・アウトドアのロケ企画と同時に普段のライブやレコーディングの密着なども放送されていました。しかし、『AI・DOL PROJECT』は完全に社会問題ロケのみ。アイドルらしい面はまったく見られないので、ハロプロファンも最初は驚いたでしょうね」(芸能ジャーナリスト)
地上波ではあえて社会派に
では、本来はアイドル番組であるはずの『AI・DOL PROJECT』が、どうしてこうまでも、アイドルらしくない内容となってしまったのだろうか。
「ハロプロは現在、YouTubeで30分程度の番組を3つも毎週配信していて、そちらの方で通常の活動に関する情報はしっかり発信しています。過去にテレ東深夜枠で放送していた番組寄りの濃い内容になっているので、“アイドル活動に関してはYouTubeの番組を見てください”というスタンスなのかもしれないですね」(同)
また、YouTube以外でも、『ハロプロ紅白対抗 ザ☆バトル2019』(dTVチャンネル)、『ハロプロ!TOKYO散歩』(BSスカパー!、スペースシャワーTVプラス)、『ハロプロダンス学園』(ダンスチャンネル)、『ハロプロ ONE×ONE』(GYAO!、11月19日配信開始)といったバラエティー番組が、BS放送やネットで放送・配信されている。
「ハロプロは、BSやネットでより濃い番組を発信するという方向性にシフトしているように見えます。地上波では放送枠を確保するのも大変だし、内容もライトなものになってしまいがち。それならば、よりファンが喜ぶような番組を、別のチャンネルで発信するというのもひとつの手段。そして、そういった番組との差別化を図るために、地上波番組である『AI・DOL PROJECT』は、より公共性が高い社会派番組になったという可能性もあるのではないでしょうか」(同)
テレビ一強の時代が終わり、さまざまなメディアで多くの番組が発信されるようになった現代。アイドル番組らしからぬ『AI・DOL PROJECT』は、そんな今を象徴するかのような番組なのかもしれない。
(文=編集部)