Uberは革新ではない…なぜiPhoneになれない?破壊的革新者が支配者になる過程
既存大企業の「正しい」意思決定
玉田教授によれば、破壊的イノベーターに対して既存の大企業は「合理的な」「正しい」意思決定を行ってしまいます。つまり、大企業は破壊的イノベーションが浸透しているプロセスに対して、リスクを避け、破壊的イノベーションを無視する行動に出るのです。
典型的失敗例は1879年の電信会社ウェスタン・ユニオンの行動です。同社はグラハム・ベルが申し出た電話の特許買い取りを断ってしまいました。この当時、電話は電報に対する破壊的イノベーションであったのです。ウェスタン・ユニオンの決断は、なぜ信頼性の高い電報に代わって欠点だらけの電話を採用しなければならないのか、という判断に基づくものでした。その後の電話の発達はいうまでもありません。
破壊的イノベーションの概念をよりよく理解するためには、「持続的イノベーション」概念も参照する必要があります。持続的イノベーションとは、市場を支配する大企業が既存顧客の満足を満たすために行う、漸進的改良のことです。つまり商品の基本的性能は変わらないが、細かい性能のブラッシュアップを絶え間なく行い、激しい競争はこうした局面において行われているのです。例えば、冷蔵庫や洗濯機の改良はこれに当たります。
日本の電話会社は、スマートフォン(スマホ)が普及する以前、今ではガラケーと呼ばれる従来型携帯電話の機能を改善することに全力を傾け、ここから「おサイフケータイ」などの革新が産まれたことは確かです。これは持続的イノベーションでした。
しかし破壊的イノベーションとしてのスマホが普及すると、ガラケーの進化はなんの意味もなくなってしまったのです。
Uberの革新の意味
Uberは09年に産まれ、スマホの普及とともに世界60カ国に浸透した新しいタクシーのアプリによる配車サービスです。東京では少し通常のタクシー代よりも高いけれども、ハイヤー並の清潔で心地よいタクシーがスマホで簡単に配車できるということで一部のユーザーの人気を呼んでいます。
ここで注意すべきは、Uberはあくまでもアプリによる配車サービスであって、タクシーそのものの経営をしているのではないことです。日本のタクシ-会社がUber専用の車を用意しています。
クリステンセン教授たちによれば、Uberは破壊的イノベーションなどではありません。破壊的イノベーターは、まず低価格帯の市場、あるいは新市場から参入します。Uberの動きは、こうした参入の仕方と一致していません。また、市場を支配してきた大企業は、既存顧客に対して過剰な適応を行い、余計な機能を提供してしまっていますが、タクシー業界ではそのような事態は起こっていませんでした。