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田中洋「マーケティングのキーインサイト」

Uberは革新ではない…なぜiPhoneになれない?破壊的革新者が支配者になる過程

文=田中洋/中央大学ビジネススクール教授

 コピー機市場においてゼロックスと日本企業との間において繰り広げられてきた攻防は、新市場をつくりだした破壊的イノベーションの例です。日本企業は中小あるいは個人のユーザー層という新しい「無消費者」層をコピーの消費者に変化させることで、破壊的イノベーションを成立させたのです。この点でもUberの成し遂げたこととは意味が違っています。Uberはタクシーの「無消費者」を消費者に変えたわけではないからです。

 もうひとつ、クリステンセン教授らが主張しているのは、もし破壊的イノベーションであるならば、多数を占める既存顧客層には、Uberは支持されないはずです。既存顧客層は最初からUberを評価していました。破壊的イノベーターの製品ならば、当初、既存顧客からは評価されないはずです。

 その後、理論によれば、破壊的イノベーターの製品品質を既存顧客層に見合う水準にまで向上させるというプロセスが続くはずです。これもクリステンセン教授の理論とは異なっている点です。結局のところ、Uberは持続的イノベーション、つまり既存の製品・サービスの改良であり、破壊的イノベーションではないということができます。
 

ブランドと破壊的イノベーション

 実はマーケティングの世界では、このクリステンセン教授らの理論は長い間、そして今でも、あまりまともに扱われてきませんでした。その理由はおそらく、顧客ニーズに奉仕するのがマーケティングの立場であり、収益をもたらしてくれる顧客が最重要だ、とする「暗黙の仮定」が存在していたからと考えられます。また、ブランドとイノベーションのジレンマとの関係も、定かではありませんでした。

 普通に考えれば、ブランドはまずもって既存の大企業のために存在し、既存顧客と企業とを結びつける役割を果たしていると理解できます。少なくとも「ブランド・エクイティ」という概念が唱えられた90年代の初頭には、「強いブランドを持てば長期的に企業は繁栄することができる」という論調が支配的でした。

 では、そのブランドはどのように産まれるのでしょうか。

 筆者は以前から「ブランドはイノベーションから産まれる」と考えてきました。筆者がより詳細にブランドの歴史をたどったところ、破壊的イノベーションによって産まれたブランドがあることは確かです。

 たとえば、破壊的イノベーションの典型例のひとつとされている米アップルのiPhoneはそのひとつです。クリステンセン教授は、iPhoneは製品自体は漸進的改良にすぎないものの、ビジネスモデルを革新することによって破壊的イノベーションを成し遂げた例として記述しています。

田中洋/中央大学ビジネススクール教授

田中洋/中央大学ビジネススクール教授

京都大学博士(経済学)
日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。
1975~1996 21年間、㈱電通勤務。
1996~1998 城西大学経済学部助教授
1998~2008 法政大学経営学部教授
2003・4年度コロンビア大学ビジネススクール客員研究員
2008~2022 中央大学ビジネススクール教授
2022~ 中央大学名誉教授
元・東証一部上場・ソウルドアウト株式会社社外取締役
関心領域:マーケティング論・ブランド論・広告論
田中洋 中央大学ビジネススクール教授のオフィシャルサイト

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