ドナルド・トランプ米大統領が27日、中国の習近平体制に香港での抗議デモの弾圧を自制するよう圧力をかけることを狙った「香港人権民主法案」に署名し、法案は成立したと報じられています。今、香港は大変な状況ですが、僕が10年前に香港を訪れた時のことを思い出しました。
当時、僕はイギリスに住んでいましたが、ある日、マネージャーから次のような連絡が入りました。
「今週、香港フィルハーモニー管弦楽団を指揮するはずだったズデニェク・マーカルが急病のためにキャンセルしたそうだ。そこで、オーケストラが代役指揮者を探している。今から、香港に行けないか?」
ズデニェク・マーカルはチェコの巨匠ですが、日本でもドラマ『のだめカンタービレ』(フジテレビ系)で、有名指揮者のセバスチャーノ・ヴィエラの役を演じて有名になった指揮者です。プログラムを聞いてみると、最初の短い曲以外は過去に指揮をしたことがあるものばかり。その知らなかった曲は飛行機の中で勉強することとして、取り急ぎスーツケースに燕尾服、指揮棒、着替えの服、楽譜を詰め込んで、空港に向かいました。
こういう急なキャンセルは欧米では結構多く、若手指揮者のチャンスの場ともなっているのですが、ともあれ僕は、世界的指揮者を音楽監督に迎えアジアを代表するオーケストラのひとつとして急成長した香港フィルハーモニーを指揮することになりました。
リハーサルが始まってみると、音楽的なことを助けてくれる楽団の副指揮者の男性と、さまざまな世話をしてくれるアシスタントの女性が、ぴったりついてくれています。両人ともに香港人ですが、尋ねてみると、副指揮者の男性はイギリス国籍、アシスタントの女性はオーストラリア国籍だといいます。
かつて英国が滅茶苦茶な理由で起こしたアヘン戦争を終えた結果、香港島がイギリスの植民地となってから1997年に中国に返還されるまで、香港は約150年もイギリスの統治下にあり、当時はイギリスの総督が在任していたのです。そのため、返還前までに香港に生まれた人たちは、返還前に申請していれば、イギリス国籍も中国籍と同時に保持することができました。実際には、「英国海外市民」というのが正式な名前で、純粋なイギリス国籍とは違ってイギリスに永住はできませんが、イギリス国籍を持っているのと同じように自由に世界中に行くことができます。