高温ガス炉原発で燃料電池車が生き返る
ところが2010年のCO2排出係数を調べると、0.350キログラム/キロワット時である。13年のたった61%だ。この違いは原発の稼働、非稼働である。11年から国内の原発がすべて止まっている。その電力不足を補ったのが火力発電であったため、13年には発電に伴うCO2排出量がぐっと増えたのである。
ちなみに10年のCO2排出係数で計算すると、ミライのCO2排出量はJC08で140グラム/キロメートル、実燃費で202グラム/キロメートルとぐっと少なくなる。もっともEUの場合、20年のCO2排出量規制値は95グラム/キロメートルである。
もし水の電気分解によって水素を製造するのであれば、このように発電のエネルギーによって燃料電池車のCO2排出量はがらりと変わるわけだ。
燃料電池車のCO2排出量削減の切り札は、高温ガス炉と呼ばれる新型の原発だ。原子炉を水の代わりにヘリウムで冷却する。するとヘリウムの温度が900℃にもなる。この高温を使って、ヨウ素と硫黄を触媒として水蒸気から水素が製造できる。高温ガス炉型原発であれば、ほぼCO2排出量ゼロで水素が製造できるわけであり、燃料電池車にとっては福音である。
一方、政府は核燃料サイクルを続けるためにも、新しい原発が必要であると考えている。高速増殖炉もんじゅの運転再開が絶望的な今日、高温ガス炉は是が非とも実現したいところだ。それが水素社会の実現に結びつくとすれば一石二鳥である。水素社会の実現もまた、高温ガス炉型原発なしにはあり得ないのだから。
だが、高温ガス炉の実現には、まだ時間がかかる。もちろん多くの問題を解決しなければならないし、なかには究極的に解決が不可能な問題があるかもしれない。論議が必要である。
私たちが自動車を未来にも使うとするならば、超えなければならないハードルは高い。
(文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表)