「今日仕事で堀北真希と山本耕史夫婦接客した」「35万の物件紹介した。賃貸で探してるくさい」
1月9日、不動産仲介会社の社員が堀北・山本夫婦が店舗に訪れたことをツイッターで明かして「プライバシーの侵害ではないか」「非常識すぎる」とインターネット上で“炎上”した。
ネット上の批判を受けて当該アカウントは削除されたが、過去にも飲食店などの従業員が有名人の来店をSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で一方的に明かして騒動になる例が後を絶たない。
こういった行為は、法的責任に問われる可能性はないのだろうか。弁護士法人ALG&Associatesの児玉政己弁護士に聞いた。
「ある店舗の従業員がSNSなどに投稿したことによる芸能人の私生活の公開行為については、投稿の内容として刑罰対象となるものが記載されている場合には刑事責任が生じ得ますが、今回のように、単に芸能人のプライベートを目撃した事実などを記載するだけで刑事責任を問うことは難しいでしょう。
一口に『SNSへの書き込み』といっても、さまざまな内容が考えられます。例えば『●●(芸能人の名前)が渋谷駅にいるから、今から襲撃する』といった旨の投稿をすれば、たとえ実際に襲撃をしなくても、対象となった芸能人に対する刑法上の脅迫罪が成立する可能性があります。
以前に、アディダスの従業員が来店したサッカー選手夫婦の私生活をツイッターに書き込んだ行為が問題となりましたが、当該従業員は選手が来店した事実のほか、その妻について『ビッチを具現化したような女』などと記載していたしたようです。この行為についても、刑法上の侮辱罪が成立する可能性は十分にあったものと考えられます」(児玉弁護士)
従業員によるSNSへの“有名人目撃投稿”は、その内容によっては刑事責任が生じ得るものの、今回の件は「芸能人夫婦が来店した事実」「紹介した物件の月額賃料」の開示にとどまるため、刑事責任の追及は難しいようだ。
プライバシー侵害で不法行為に該当か
ただし、児玉弁護士は「従業員個人について民事上の損害賠償責任が発生するのみならず、従業員が所属する企業(団体)についても、損害賠償責任が生じ得ます」と指摘する。
「刑事上の責任が生じなくても、当該行為により芸能人の法的に保護されるべき権利(利益)が害された場合には、民事上の不法行為責任が生じます。この点、我が国においては『個人のプライバシー』は法的に保護されるべき権利(利益)として扱われており、芸能人であっても異なるところはありません。
そのため、SNSなどへの投稿によって、対象となった芸能人のプライバシーが侵害されたと認められる場合には、当該プライバシーの侵害により、芸能人が被った損害(精神的苦痛が中心になると考えられます)について、民事上の不法行為責任が生じます。
さらに、従業員の勤務上行われた不法行為については、当該従業員を稼働させて自らの事業を営んでいる企業(団体)に対しても、責任を追及することが可能です。
自らが新居を探しているという事実や、その月額賃料などについては、知られれば防犯上の見地などから実害が生じる可能性もあるため、他者への公開を欲しない事実であることは間違いありません。今回の従業員の書き込みは、このような私生活上の事項を公にしてしまったものであるため、不法行為責任の成立が認められる可能性が高いといえるでしょう」(同)
守秘義務違反で罰金刑の可能性も
個人のプライバシー侵害に該当することは明らかなため、民事上の不法行為に該当する可能性があるということだ。また、こういった騒動の際によく耳にする「守秘義務」とはなんだろうか。これについても、児玉弁護士に聞いた。
「守秘義務とは、職務上知り得た秘密を正当な理由なく外部に漏示しないことを遵守すべき、法令や契約などに基づく義務をいいます。
この点、法令においては、他者の秘密を取り扱うことが多い一定の業種のみについて守秘義務を課しており、違反については刑罰を規定する場合もあります。例えば、我々弁護士に対しては弁護士法が守秘義務を課していますが、その違反については、刑法上の秘密漏示罪が成立し得ます。
また、そのような行為が不法行為に当たることは間違いないため、法令上の守秘義務違反者に対して、被害を被った人物が民事上の不法行為責任を追及することも可能となります。
これに対し、法令が守秘義務を課す一定の職業に従事する以外の者に対しても、契約により守秘義務を課すことは可能です。もっとも、ある人物に刑罰を科すには法令による定めが必要とされているため、契約上の守秘義務違反に対して刑罰を科すことはできないものと考えられます。
また、契約上の義務違反について、法的には契約の相手方からの責任追及のみが可能となるため、例えば、企業の従業員が使用者である企業との間で守秘義務契約を締結していた場合、被害を受けた人物が守秘義務違反を根拠として直接、当該従業員に責任追及することは難しいものと考えられます。
これに対し、守秘義務契約の相手方からの義務違反の責任追及は可能であり、企業が雇用する従業員との間で守秘義務契約を締結していた場合、その違反に対して、企業から従業員に対する債務不履行責任の追及が可能です。また、守秘義務違反を社内における懲戒事由として定めている場合には、それが不当に過大な懲戒に当たるなどの場合でない限り、懲戒処分を下すことも可能になると考えられます」(同)
今回、騒動の舞台になったのは不動産仲介会社の店舗だ。問題の行為を行った社員に対しては、どういった責任追及が考えられるのだろうか。
「問題の社員は不動産賃貸業務の窓口を担当していたと考えられるため、宅地建物取引業法上の宅地建物取引業者として、同法上の守秘義務を課されている可能性があります。
この場合、本件の開示事実である『ある人物が来店の上、新居を探している事実』や『探している物件の月額賃料』などといった事実は、職務上知り得た『秘密』に当たると考えられるため、問題の行為については、民事上の不法行為責任の追及のみならず、宅建業法上の罰則(83条、50万円以下の罰金刑)の責任追及まで可能になると考えられます。
また、宅建などの有資格者ではない一般の従業員だった場合は、雇用者である企業(団体)との間の守秘義務契約の違反や、団体内部における懲戒というかたちでの責任追及のみが可能になると考えられます」(同)
芸能人ならずとも、自分の行動が見知らぬ相手によって公開されるというのは、あまり気持ちのいいものではないはずだ。犯罪になるか否かといった基準以前に、モラルやマナーの観点から慎むべきだろう。
(文=編集部、協力=弁護士法人ALG&Associates・児玉政己弁護士)