企業Twitterアカウントは多数ある。シャープ、タニタ、キングジム、東急ハンズなど、人気の企業アカウントに共通するのは人柄を感じさせるツイートの数々だ。企業アカウント同士が会社の違いという壁を超えて親しくしていたり、PRではないツイートが楽しめる。
そのような企業アカウントでも炎上したりすることもあるが、フォロワーが大幅に減るようなこともなく、人気も高いままだ。トラブルが起きても支持を失わない運用とはどのようなものなのだろうか。
人気すぎて擬人化、カプセルトイ化も
『シャープさんとタニタくん』をご存じだろうか。登場するのは企業アカウントの中の人、シャープさんとタニタくんの2人。企業アカウントが擬人化、4コマ漫画化されたものであり、人気の高さがわかるだろう。
シャープ(@SHARP_JP)とタニタ(@TANITAofficial)の公式アカウントは執筆時現在それぞれ約62万9000人、30万6000人のフォロワーがいるなど、非常に多くのフォロワーを抱えている。
前述の通り、一般的に企業のTwitterのアカウントは商品・サービスなどのPRのために運用するものだが、人気のアカウントではまったくPRにつながらないツイートも多く、それが信頼や人気につながっているのだ。
たとえば東急ハンズは、関東各地に大雪警報が出た際に、「東京23区、多摩地区に #大雪警報 が発令されたようです。東急ハンズに来ている場合ではありません。早めにご帰宅を」とツイートして話題となった。自社の売上ではなく、顧客の安全を考えたツイートが高い評価を呼んだというわけだ。
東京23区、多摩地区に #大雪警報 が発令されたようです。東急ハンズに来ている場合ではありません。早めにご帰宅を。
— ハンズ公式 (@Hands_official_) January 22, 2018
他にも、タカラトミーから企業Twitter中の人が漫画『よつばと!』シリーズに登場するロボットキャラクター「ダンボー」とコラボしたカプセルトイ(キングジム、セガ、タカラトミー、タニタ、東急ハンズ、シークレットの6種類)が出たこともある。
このように他社から見るとうらやましくなるほどの人気を誇る一方、逆に炎上するなどトラブルにつながっていることもある。
プチ炎上もすぐに鎮火
たとえば11月には、人気アカウントの一つがプチ炎上をしていた。キングジムの公式アカウントが「いわゆるカリスマ美容師さんから『店のSNSがバズって1日で300人フォロワー増えた!』とか『上京20年、俺的・東京の魅力!!』的な話を延々とされたので『(自分が運営するアカウントは日に1,000人増など日常である。ちなみに私は生まれも育ちも東京である)』と口には出さずにニコニコ聞きました。」とツイート。
いわゆるカリスマ美容師さんから「店のSNSがバズって1日で300人フォロワー増えた!」とか「上京20年、俺的・東京の魅力!!」的な話を延々とされたので「(自分が運営するアカウントは日に1,000人増など日常である。ちなみに私は生まれも育ちも東京である)」と口には出さずにニコニコ聞きました。
— キングジム (@kingjim) November 18, 2019
当初はフォロワーから大絶賛されたものの、次第に「自意識に違和感」などの批判ツイートが目立つようになった。その結果、ツイート後数日間は周辺でネガティブツイートが多くなってしまった。
同様に、Twitterで「シャープ」で検索すると、「シャープ 気持ち悪い」という候補が出る。これは、SHARPアカウントがある女性Aさんの個人アカウントに対してからんだ際に、「@(Aさんのアカウント名)【働き方改革】恋愛方面のご利益(Aさん)と仕事方面のご利益(わたし)で役割分担しよう」「@(Aさんのアカウント名)大丈夫?印鑑揉む?」とツイートしたことが原因のようだ。後者のツイートは元ネタが下ネタだったため、一部のユーザーに反発されたらしい。
どちらもプチ炎上といえるものだったが、決定的にユーザーの反発を食らうこと、企業に対してマイナスイメージにつながることをツイートしたのではなかったので、次第に沈静化していった。
この時感じたのは、「SHARPのTwitterがキモいキモい言われてるの悲しい 全員にインターネットから消えてほしい」などの支持する声が少なくなかったことだ。普段からフォロワーと関係性が築けており、信頼が壊れていなかったためだ。実際、周囲にネガティブなツイートは見られたものの、フォロワーが減ることはなく、次第にプラスの投稿が増えて日常に戻っていったのは興味深い。
普段の関係性と謝罪・フォローが大切
タニタ、キングジム、井村屋、東急ハンズ、タカラトミー、セガホールディングスなどの人気企業Twitterアカウントの中の人が集まってセミナーが行われたことがある。
セミナーでは、「SNSでファンをつくる方法」として、過去に実際に行われたコラボツイートや話題を集めたツイート事例などを紹介。中には、キングジムの「羽生結弦選手のノートカバーが当社の商品だということを知って、自社商品はほぼ把握しているので品番を特定してツイートしたところ、結構すごい売り上げにつながった」など、売上につながった事例も紹介された。
人気アカウントの中の人でも、炎上した経験は6人中4人が「ある」と回答。投稿内容を会社の人に叱られたことがあるのは6人中5人、プライベートなアカウントのつもりで企業アカウントでツイートするなど誤爆したことがあるのも6人中4人いた。
かなりTwitterに慣れており上級者と思われる人たちでも、これだけ失敗している。ある程度の失敗は必ずしてしまうものと覚悟したほうがよさそうだ。ただし失敗しても、普段からフォロワーとしっかりした関係性を築けていたり、失敗の後に誠実に謝罪、フォローしたりすれば大きな問題にはつながらない。
企業アカウントを運用する場合は、普段から信頼されること、フォロワーに対して誠実でいること、関係性を築いておくことだ。たとえば前述の東急ハンズのツイートのように、普段から顧客を一番に考える姿勢でいたりすれば信頼は高まっていくだろう。結局それが支持につながるし、ちょっとしたトラブルでもフォロワーが離れていかないコツと言えるのではないだろうか。企業アカウントを運用する場合は、この点を参考にしてうまく関係性を築いてほしい。
(文=高橋暁子/ITジャーナリスト)