米Twitterは4月25日、米テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏による買収提案を受け入れた。買収額は同氏の既存保有分を含め440億ドル(5兆6000億円)。ツイッター買収劇は、マスク氏の思惑通りに決着した。
マスク氏は4月4日、ツイッターの株式を保有していることを明らかにし、13日、残る全株式を取得することを提案した。ツイッターの取締役会は15日、買収防衛策を導入。当初は対決する姿勢を見せた。
しかし、マスク氏が21日、金融機関からの借り入れや自己資金などで総額465億ドルの買収資金を確保したと公表。融資団には米モルガン・スタンレーを幹事行に米バンク・オブ・アメリカ、英バークレイズ、仏BNPパリバのほか、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループなど米欧日の大手銀行が名を連ねた。買収に向けた本気度が示されたことで、取締役会は提案を受け入れる方向へと方針転換を余儀なくされた。
マスク氏は465億ドルの資金のうち210億ドルは自己資金で賄うと説明した。自己資金の出どころについて明らかにしていないが、4月29日までに80億ドル超(1兆円超)相当のテスラ株を売却した。
今回のテスラ株式の売却では210億ドルの確保には、まったく不十分。さらなるテスラ株式の売却が観測されている。4月5日、米フォーブス誌が発表した22年版の世界長者番付では、マスク氏が保有資産2190億ドル(27兆円)で、初めてトップに立った。ツイッターの買収劇でも“キャッシュリッチ”の起業家の腕力がいかんなく発揮されたことになる。
トランプ前大統領のアカウントを復活させるのか
世界一の大富豪、マスク氏は、なぜツイッターの買収に踏み切ったのか。SNSに関しては中傷やフェイクニュースなどの有害投稿が常に問題になっている。ツイッターは米バイデン大統領ら各国首脳・要人が情報発信に利用しており、インターネット上の言論空間として重要度を増している。
一方で、2016年の米大統領選などで偽情報の拡散などが問題視され、近年は不適切な投稿の削除やアカウントの停止など、管理体制を強めるよう強く求められていた。これを受けて、ツイッターは投稿を監視し、削除やアカウントの凍結を行っている。こうした検閲を問題視したマスク氏は、「言論の自由を守る」との名目でツイッターの買収に乗り出した。
「ツイッターのような公共性の高いSNSは真の言論の自由を可能にするプラットフォームにならなくてはならない」とマスク氏は主張。買収で合意した際にも、「言論の自由は民主主義の礎石であり、ツイッターは人類の未来に不可欠な事柄が議論されるデジタルの町の広場であるべきだ」と力説していた。
イーロン・マスク氏は株式の非公開後に、投稿の表示順序などを決めるアルゴリズムを公開し、改善策を講じることができるようにすると表明している。SNSでは、コンテンツ表示の優先度や非表示の判断をアルゴリズムで決めている。これまでにも問題がないはずのツイートが非表示になったり、不当に表示回数が減らされるなどの問題が起きていた。
マスク氏は、アルゴリズムをオープンにしコンテンツ採択への介入を最小限にとどめるべきだと主張してきた。SNS各社は有害投稿への対策を取っているが、マスク氏が買収後、「フェイクニュースや誹謗中傷のツイートにどう対処するか注目だ」とネット上では議論されている。
マスク氏が買収を決めたことにより、さっそくさまざまな反応が出てきた。欧州連合のブルトン欧州委員(域内市場担当)は、「投稿コンテンツの管理に関し、マスク氏も欧州域内のルールに従う必要がある」と釘を刺した。欧米ではSNS運営企業にヘイトスピーチなどの不適切な投稿を管理することを義務付けるルールの整備が進んでいる。ツイッター上から検閲的な行為を極力なくそうとするマスク氏の試みはこうした流れに逆らうものだとの指摘もあり、規制推進派の反発を招くのは必至だ。
最初の試金石となるのがドナルド・トランプ前米大統領に対する対応だとされている。ツイッターは2020年、大統領選挙の際にトランプ氏の投稿の一部を不適切と判断して注意を喚起するラベルを付けた。21年1月には連邦議会議事堂の占拠事件を受け、「暴力扇動の恐れがある」としてトランプ氏のアカウントを永久追放した。マスク氏がこの決定を取り消すかどうかだ。
トランプ氏は米FOXニュースの取材に「イーロンはツイッターを改善してくれるだろう」と語る一方、買収後にアカウントの復活を決めても「私はツイッターに行かず、(新たなSNSの)トゥルース・ソーシャルに残る」と表明している。
マスク氏による経営が始まったことで投稿内容への自主規制が緩めば、22年の米中間選挙やトランプ氏が再出馬を視野に入れている24年の大統領選に重大な影響を及ぼすことにもなりかねない。マスク氏のツイッター買収劇は経済事案を超え、大統領選の行方をも左右しかねない政治問題化してきた。
ツイッター株主総会、マスク氏系とみられる取締役の再任を否決
ツイッターが5月25日に開いた定時株主総会で、会社側が提案した米投資ファンド幹部の再任案が反対多数で否決された。再任を拒否されたのはイーゴン・ダーバン氏。マスク氏に近い存在とされ、マスク氏の買収に影響を与えるかもしれない。
イーロン・マスク氏はツイッターが公表している「偽アカウントの割合は利用者全体の5%未満」という数字に疑念を示し、裏付けが得られるまで取引を一時的に留保している。ツイッター側は買収価格の引き下げを狙って揺さぶりをかけるマスク氏に反発しており、5月25日の株主総会でも「株主がマスク氏に厳しい態度を示した」と受け止められている。
株主総会でパラグ・アグラワルCEOは「規制やその他の理由により、今日は取引について議論することはできない」と述べるにとどめたが、膠着状態にある買収の前途は一層の波乱含みとなった。
買収中止を示唆か
米証券取引委員会(SEC)に提出した資料で、マスク氏側がツイッターの買収中止の可能性について言及した。マスク氏側はツイッターに書簡を送り、「買収取引を完了しない権利、契約を解除するすべての権利を保持する」と強調した。
マスク氏は偽アカウント問題をめぐって5月中旬には買収額の引き下げに触れた。書簡で再度ツイッター経営陣に圧力をかけた格好だ。マスク氏はツイッターを本当に買収するのだろうか。