銀座にある海鮮料理店「近畿大学水産研究所 銀座店」に行ってきました。
「近畿大学」というワードでピンときた方も多いかと思いますが、近畿大学水産研究所は世界で唯一、クロマグロの完全養殖に成功したことで有名です。通称「近大マグロ」として世間の注目を集めました。近畿大学水産研究所は、その近大マグロやヒラメ、マダイ、シマアジ、ブリ、カンパチなど“近大生まれ、近大卒”の魚を使った料理を提供する店として誕生しました。
筆者は昼時に行ったのですが、店内は満席で12名の行列ができていました。客の年齢層は40~60代ぐらいと少し高めです。20分ぐらい待って、ようやく着席できました。店内はシックな内装で清潔感があり、落ち着いた雰囲気に包まれていました。
ランチメニューはシンプルで、「近大マグロと選抜鮮魚のお刺身ご膳」(税込2480円)、「近大マグロと選抜鮮魚の海鮮丼」(同1850円)、「近大マグロとわかしらすの紀州丼」(同1650円)の3つがメインです。
ここでは、「アンカリング」の手法が使われています。アンカリングとは、提示された特定の数値や情報が印象に残って、それが基準(アンカー)となり、その他の判断に影響を及ぼすことをいいます。
お刺身ご膳の「2480円」がアンカーとなり、「お刺身ご膳の2480円は高いけれど、1850円の海鮮丼なら安いし、一番下のランクの紀州丼よりはいいものを食べたい」という心理が働き、多くの人が真ん中のランクのメニューを選ぶようになります。事実、店内のお客の多くが海鮮丼を注文していました。また、2000円台と1000円台とでは消費者の価格心理に大きな違いがあり、海鮮丼はおおざっぱに「1000円台の商品」と認識されるので、安さを演出できています。
ちなみに、価格帯を「3つ」用意するというのは非常に効果があるものとして知られています。「松竹梅の法則」と呼ばれたりします。上記のように、一番売りたい商品を中間の価格に設定し、それよりも高い価格の商品と安い価格の商品を用意します。高い価格の商品との比較で価格のお手頃感をアピールし、安い価格の商品との比較で品質の良さをアピールすることで、中間の価格の商品の良さを際立たせるのです。
筆者もこのアンカリングの手法に乗っかるかたちで海鮮丼を注文しました。
店員さんが料理の説明を丁寧に行ってくれました。このような説明は非常に大事です。対応は合格点として、味のほうはどうでしょうか。さすがに天然マグロには及びませんが、全体的にさっぱりしていておいしく頂けました。研究が進むにつれて、養殖マグロでも天然マグロに匹敵する味にまで近づいていくのではないでしょうか。何よりも、同店・同大学の養殖マグロに対する情熱に敬意を表したいものです。
同店のマーケティング戦略で感心させられたのは、自分たちの情熱や取り組みをしっかりと消費者に伝えているところです。店内には数台のモニターが設置されており、養殖や研究の様子を放映することで自分たちの取り組みを消費者に理解してもらおうと努めていました。
テーブルには、養殖や研究についての記事を掲載した雑誌が数多く置いてありました。
パンフレットも置いてあり、こちらでも養殖や研究についての説明がされていました。商品・サービス、店の良さを言葉や映像で形として表現するということは非常に大事なことです。
「知ってもらう」ということを強く意識していることがひしひしと伝わってきます。それが消費者に受け入れられて、根強いファンが形成されていくことにつながっているようです。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)