スタバやナイキ、なぜあえてブランド名を「隠す」?自社を否定し成長する卓越戦略
といっても、この場合、ブランドが完全に消されたというわけではありません。コカ・コーラという著名ブランドの、それもよく知られたコンツアーボトルのラベルに人の名前が印刷されているので、ある意味では強いブランドによって支えられたキャンペーンであるともいえます。
しかしながら、コカ・コーラのもっとも重要な資産であるブランド名にとってかわって、ラベルの真ん中に別の名前が載るということは、それ自体画期的な出来事だったといわなければなりません。ブランド名の露出がマーケティング活動上、もっとも優先されるとは限らないことをこのケースは示しています。
ここからわかることは、デ・ブランディングとは、マスプロダクトである商品から「コーポレート」色をいったん払拭し、パーソナルなタッチを回復するための戦略であるということです。こうすることで、消費者間のコミュニケーションと絆が促進され、結果として商品も売れるということなのです。
ナイキとスターバックス
このほかのデ・ブランディング事例をみてみましょう。実はデ・ブランディングの最初と考えられる事例は、20年ほど前にさかのぼります。
それは1995年に米ナイキが自社のロゴからブランド名を取り去り、スウッシュ(Swoosh)と呼ばれるマークだけに変化させたことです。このとき、ナイキはすでに確立したブランドとなっており、そのマークはよりシンプルになり視覚的に見やすいデザインになりました。
似た事例が、米スターバックスにも見られます。創業40周年である11年に、マグやカップのマークから「STARBUCKS COFFEE」というブランド名を取り去り、セイレーンと呼ばれる人魚のロゴだけを残したのです。
これらの事例に共通していることは、ひとつにはブランドがよく知られるようになり確立したとき、ブランド名を取り去ってマークだけで顧客への露出を図るという意思決定がみられることです。
もう一点、これらの事例で共通していることは、ナイキもスターバックスも、自社の商品カテゴリーを拡張して、より広い商品ラインを提供しようとしていた時期に当たることです。すなわち、ナイキはアスリートシューズだけでなく、さまざまな運動用具やファッションを提供しようとしていましたし、スターバックスもコーヒーだけでなく、フードなどのサービスを拡張しようとしていたのです。
ここから、デ・ブランディング戦略とは、それまでの自社のありようをいったん否定して、新たな装いで新しい価値を提供しようとする時期に有効な戦略であることがわかります。