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「日本のリゾート再生王」を東京地検が起訴…北海道リゾートと中国マネーの関係浮き彫り

文=編集部
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加森観光 HP」より

 カジノを含む統合型リゾート(IR)の参入をめぐる汚職事件で、札幌市の観光会社、加森観光加森公人(きみひと)会長が贈賄罪で在宅起訴された。東京地検特捜部は1月14日、衆議院議員の秋元司容疑者=自民党を離党=が中国企業「500ドットコム」側から講演料や旅費の名目で計約350万円の賄賂を受け取ったとして、収賄容疑で再逮捕した。最初の逮捕容疑と合わせた賄賂の総額は720万円となった。

 秋元議員は豊嶋晃弘・元政策秘書と共謀し、17年9月28日、衆院議員会館の事務所で現金300万円を受け取ったほか、18年2月10日から13日までの北海道留寿都(るすつ)村への家族旅行の費用計約76万円を負担させたとされる。

 500ドットコムは17~18年、加森観光とともに留寿都村へのIR誘致を目指し、IR担当の副大臣などを務めていた秋元議員に支援を要請。秋元議員は飛行場の整備を含めた同村周辺のインフラ整備や、IR実施法案の検討状況について助言するなど便宜を図った疑いがもたれている。加森観光は500ドットコムと共謀して秋元議員の北海道旅行費約76万円を負担したとして、特捜部は同社の加森会長を贈賄罪で在宅起訴した。加森観光は「極めて遺憾。起訴の事実を重く受け止め、全力を挙げてコンプライアンス強化に全力を尽くす所存だ」(原文ママ)とするコメントを発表した。

加森観光が運営するルスツリゾートにIR誘致を計画

 北海道のIR誘致候補として苫小牧市と虻田(あぶた)郡留寿都村が名乗りを上げ、新千歳空港に近い苫小牧市が有力視されていた。これに留寿都村が猛反発。加森観光の加森会長がIR誘致の旗振り役として前面に出た。

 留寿都村には加森観光が運営する「ルスツリゾート」がある。同リゾートには約850室、約3500人が宿泊可能な施設がある。冬季は3つの山からなる35以上ものスキーコース、夏季には4つのゴルフコースがあり、通年型のリゾート施設としてアピールしている。2008年7月に開催された第34回主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)では国際メディアセンターとして使用された。

 加森観光は中国企業の500ドットコムと組んだ。横浜、大阪など主要候補地では米国のカジノ業者が参入を目指しており、勝ち目はない。そこで、候補地を3地域から5地域に拡大し、大穴の留寿都村でのIR参入を狙った。秋元議員を突破口に、政権の上層部に駆け上がることを計画した、とされている。

 だが、知事選で初当選した鈴木直道・北海道知事は、19年11月29日の道議会で「IRの誘致申請を見送る」と表明。加森観光と500社の計画は泡と消え、贈賄罪が失敗の大きな代償となった。

民営化する新千歳空港運営権の争奪戦にも敗れる

 北海道の最大のプロジェクトは2020年度に一括して民営化される北海道7空港の運営業者の選定である。新千歳空港は国管理の空港民営化では最後の目玉案件として注目を集めている。運営業者は新千歳空港ターミナルビルを運営してきた北海道空港(HKK)陣営の「北海道エアポートグループ」に決まった。同陣営には三菱地所、東京急行電鉄(現・東急)、日本政策投資銀行、日本航空、ANAホールディングス、電通、三菱商事、三井不動産など17の企業や金融機関が名を連ねる。北洋銀行や北海道銀行、北海道電力も主要メンバーだ。東京建物を代表に仏パリ空港公団(ADP)、東武鉄道、加森観光など6社で構成する「スカイセブン」陣営も名乗りを上げたが、勝負にならなかった。

 加森観光は新千歳空港への参画、留寿都村へのIR誘致計画で2連敗を喫した。

「リゾート再生王」の異名

 加森観光は加森勝雄氏が1953年に設立した加森産業が前身。勝雄氏は貸ビル業から観光業に事業を拡大し、登別温泉ケーブル、のぼりべつクマ牧場を開業。1981年、ルスツリゾート経営のため、登別温泉ケーブルの全額出資で加森観光を設立した。

 1992年、息子の加森公人氏が父の後を継いで加森観光の社長に就いた。学習院大学経済学部卒。ちっぽけなクマ牧場を足がかりに、「リゾート再生王」へと駆け上がっていった。具体的には、90年代後半から経営に行き詰まったリゾートの買収や運営委託を積極的に進めた。

 加森氏が手掛けたものとしては、仙台の不動産会社、関兵精麦が開発を進めた北海道占冠村のアルファリゾート・トマム。セゾングループ傘下の西洋環境開発がフランスの地中海クラブと提携し開発した北海道新得町のサホロリゾート。リクルートの創業者、江副浩正氏が心血を注いだ岩手県の安比高原スキー場と盛岡グランドホテルを経営する岩手ホテルリゾートなどが有名である。

 オリックスから委託された大分県別府市の巨大ホテル、別府温泉杉乃井ホテル。新日本製鉄(現・日本製鉄)の委託を受け北九州市のテーマパーク、スペースワールドも運営した。買収にはカネをかけず、従業員も解雇しない。でも、加森氏が手を染めると、なぜか、そのリゾートは再生する。多くの経営破綻した観光地を再生させたとして、国土交通省の観光カリスマにも選ばれた。

長男はオーストラリアのコアラ保護区の総支配人

 18年6月、長男の久丈(ひさたけ)氏に社長の椅子を譲り、公人氏は代表権のある会長に就いた。久丈氏は中学時代から渡米し、02年、エマーソン大卒。今でも英語でメモを取るほど英語は堪能だという。03年に加森観光に入社。営業企画部長、海外事業部長などを歴任した。

 11年からオーストラリアで運営するコアラ保護区「ローンパインコアラサンクチュアリー」で総支配人を務めた。同保護区の来場者数を12年度の23万人から17年度には42万人に増やした。昨年からのオーストラリアの森林火災でも、このコアラ保護区は無事なようだ。

 北海道のリゾートは中国企業が次々と買収し、チャイナタウンと化している。公人氏が500ドットコムと組んだのは、中国企業抜きでは北海道の観光は成り立たないからだ。久丈氏はオーストラリアから自社のリゾートへの誘客に力を入れる。カンタス航空(オーストラリア)は19年12月から20年3月、新千歳-シドニー直行便を就航。週3便の往復で期間中に1万席を提供するが、加森観光が4000~5000席程度を買い取った。オーストラリアからのスキー客をルスツリゾートに呼び込むのが狙い。現地のツアー企画会社を通して、ホテルと航空券をパッケージにして割安で販売。中国人観光客に比べて伸び悩んでいるオーストラリアからの集客に本腰を入れている。

 加森観光グループの全体像は謎に包まれている。東京商工リサーチによると、加森観光(単体)の19年3月期の売上高は141億円。だが、非上場のため、詳細な売り上げや利益などの財務内容は明らかになっていない。ホームページによると資本金は1億円。

 道内屈指の観光会社、加森観光の総帥、加森会長が贈賄罪で在宅起訴された。道内観光業のイメージダウンは避けられない。

(文=編集部)

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