8月下旬、新千歳空港から大阪国際空港(伊丹)に向かう飛行機の出発が大幅に遅れ、ピリピリした雰囲気になりつつあった機内で歌手の松山千春が自身の持ち歌『大空と大地の中で』を歌って客を和ませたことが「神対応」だと話題になった。
この日は新千歳空港が大混雑し、保安検査場を通過できない客が多数出ていた。しかも、それ以降の便も伊丹行きは満席だったため、すべての乗客が搭乗するまで離陸できないという事情があった。
筆者はその数日前に新千歳空港を利用したばかりだった。午前11時30分の東京国際空港(羽田)行きの便に乗るため、1時間半前に出発カウンターに着いた。そこで見かけたのは、手荷物を預ける乗客の長蛇の列だった。2つの受付は、それぞれ100メートル以上の行列で、いったんは列に並んだものの遅々として進まない。周囲から「これじゃ1時間以上並ぶわよ」「自動預け機がないのか」といった声が上がっていた。
1時間も並ぶのは、はっきり言って時間の無駄だ。手荷物を預けることをあきらめ、ターミナルビル内の宅急便サービスを利用した。その後、家族で30分ほど土産物店をのぞいて保安検査場に向かった。こちらも並んではいたが、10分ほどで通過できた。
搭乗口近くの椅子で出発案内までの時間を過ごし、アナウンスに従って列に並んだ。すると、搭乗口近くの列に横から人々が入り込む新たな列ができ、早くから並んでいた列の人たちは結局、後回しになりかねない状況になった。幸い、乗る便が混んでいたため後部座席からの搭乗となり割とスムーズに搭乗できたが、搭乗口前にラインを引いたりスタッフが列を誘導するなど改善の余地があるように思った。
ターミナルビルに直結する駐車場も1時間待ちはザラ
新千歳空港の混雑は、ターミナルビル内だけではない。ビルに隣接する駐車場も満車で週末などは1時間待ちがザラだという。空港にはA、B、Cと3つの駐車場があり、合計で3600台を収容できる。空港のホームページにはライブ情報がアップされ、混雑状況を確認できる。その傍らに「お客様へ」という案内があり、「週末や繁忙期に近づくにつれ1時間程度の渋滞が発生します。到着時間に余裕をもってご利用いただくとともに、公共交通機関もご利用ください」と記されている。現在、B駐車場に新立体駐車場を建設中で、完成後は大幅に駐車枠が増えるというが、工事中の今は逆に駐車台数が制限されている状態だ。
この駐車場を利用するのは搭乗客だけではない。温泉や映画館など空港ターミナルビル内の施設利用客には3時間無料のサービスがある。そのため空港に遊びに来る客も利用しているという。
新千歳空港のターミナルビルはショッピング、グルメ、エンターテインメントの施設が充実して空港全体が楽しめるスポットとなっているが、あまりの混雑に楽しむどころではない人が多いのではないか。筆者が利用したのはお盆明け直後の平日だったが、それでも大混雑だった。
一方、お盆直前に往路で利用した羽田空港では、手荷物は自動預け機を利用したところ、数人待ちでスムーズに終了。保安検査場も5分程度で通過できた。
なぜ、新千歳空港はこんなに混雑するのだろうか。
年間2131万人が利用する国内第5位の旅客数
新千歳空港の混雑の背景には利用客の急増がある。2016年の空港別年間乗降客数の上位5港は次の通り。
1位…東京国際空港 8011万人
2位…成田国際空港 3658万人
3位…関西国際空港 2513万人
4位…福岡空港 2199万人
5位…新千歳空港 2131万人
(いずれも国土交通省のデータ。万人以下は四捨五入)
新千歳空港は全国5位で、1日平均にすると5万8389人。一方、国内線だけでみると新千歳空港は約1873万人(1日平均5万1321人)で、東京国際空港の約6494万人に次いで国内2位となっている。
新千歳空港は1992年に供用開始となったが、現在の国内線利用客数は当時と比べ400万人以上も増えている。新規航空会社の参入やLCC(格安航空会社)の相次ぐ就航で発着便数が増加し、乗客数はいまだに増加傾向にある。今年7月の利用客数は国内線、国際線ともに7月としては過去最高で、合計で209万9394人に達した。
こうした利用客増を踏まえ、ターミナルビルの運営会社である北海道空港株式会社は2015年3月から施設狭隘化解消と空港機能施設の機能向上、保安強化などを目的に施設整備工事に取り組んでいる。今年4月から保安検査場が拡充され、利用客の利便性は向上した。とはいえ、まだまだ混雑は解消していない。
北海道では新千歳空港をハブにした7空港民営化の動きが進む。一方で、道を挙げてのインバウンド加速プロジェクトが進行中で、20年度には現在の倍以上に当たる500万人の来道客をめざしている。活性化策を進めるのは結構だが、肝心の空港インフラの拡充とサービス向上を図らないと、国内外の客の不満は高まるばかりだ。観光大国をめざす日本の課題は多い。
(文=山田稔/ジャーナリスト)