アベノミクスで不動産バブル? 三井・三菱・住友ほか“土地持ち”企業株価乱舞の背景
存在感を増しているのは住友不動産だ。10年3月期と12年同期の賃貸等不動産の増減を比較してみよう。簿価は三菱地所が2.8兆円→2.8兆円、三井不動産が1.8兆円→2.0兆円なのに対し、住友不動産は1.8兆円→2.6兆円に増加した。
時価は三菱が4.9兆円→4.7兆円、三井が2.5兆円→2.8兆円だったが、住友は2.4兆円→3.6兆円へと大幅に増えた。その結果、含み益は三菱が2.0兆円→1.9兆円、三井が0.7兆円→0.8兆円だったのに、住友は0.5兆円→0.9兆円と1.7倍に膨らんだ。含み益ランキングで、住友は三井を抜いて5位から2位に浮上した。
住友の大躍進は、東京・港区の汐留再開発地域の汐留住友ビルと東京汐留ビルディング、三田の再開発地域の住友不動産三田ツインビルなどの再開発事業が寄与した。
上位を大手不動産、鉄道、通信が占める中で大健闘しているのが、映画・演劇の東宝。1月8日、東宝不動産を完全子会社化すると発表した。両社の含み益を合計すると3142億円。有楽町センタービル(有楽町マリオン)、日比谷の東宝ツインタワービル、丸の内の帝劇ビルなど、日比谷・有楽町・丸の内に大型賃貸物件を持つ土地持ち企業なのである。
倉庫大手は物流事業が主力だが、営業利益の過半を稼ぎ出すのは不動産事業だ。古くから保有している土地が、多額の含み益を生んでいる。
含み益が最も大きかったのは三菱倉庫で1721億円。含み益は時価総額の0.8倍。特に含み益が大きいのは、東京・中央区や江東区の不動産とみられる。
三井倉庫は時価総額が456億円に対して不動産の含み益が1079億円と2.4倍となっていることから買われた。1月16日の昨年来の高値381円は、11年、12年のそれぞれの年間高値を抜いた。三井倉庫は、時価総額以上の賃貸等不動産の含み益を持つ銘柄のランキングで2位だ。同4位で時価総額の1.9倍の含み益を持つ澁澤倉庫も、1月7日に昨年来の高値282円をつけた。
時価会計の時代となり、簿価と時価が極端に乖離する例は少なくなったが、時価総額以上の含み益を持つ銘柄は、株価が割り負けていることを意味する。市場評価が不十分とみることができよう。アベノミクスで不動産価格がインフレへ向かうといった期待から、土地持ち企業は軒並み人気銘柄になった。
その意味からすると、東京・銀座のシンボルである銀座4丁目の時計塔で知られるビルを100%子会社の和光を通じて保有するセイコーホールディングスは注目銘柄だ。長らく株価は200円前後に低迷していたが、含み資産関連株の見直しの追い風に乗り、リーマンショック前の1000円台の株価を回復したいところだろう。ちなみに昨年来の高値は7月5日の268円である。
東京・内幸町に飯野ビルディングを保有する飯野海運にも、不動産関連の側面から光が当たっている。時価総額の1.4倍の含み益を持つ飯野海運はランキングの7位だ。株価は1月18日に12年来の高値423円をつけた。
隠れた土地持ち企業もある。時価総額の2.0倍の含み益で3位にランクインした繊維が発祥の片倉工業である。女性用の靴下などで知られた銘柄だが、東京・京橋の旧本社の再開発は13年3月に竣工予定。さいたま新都心の工場跡地で、専門店や映画館が入っている商業施設、コクーンを運営している。ショッピングセンターを建設する第2期開発計画に120億円を投じ、15年春には現在の施設を含めて規模が2.4倍になる。株価は1月15日に昨年来高値の897円をつけた。10年3月の986円の高値に迫る勢いだ。