洗えるウール開発!田舎の小さなニット会社、なぜ苦境脱し欧州有名ブランドが殺到?
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
3月に入り、春を感じる日も多くなった。外出の際に、冬とは違うファッションを楽しめる時季でもある。
ところで「ファッショントレンドの発信」は、大半は東京、大阪、名古屋といった大都市や、横浜、神戸などの高感度都市から発せられる。だが、地方発で大きな成果を挙げている企業もある。今回は東北地方のアパレルメーカーを例に、低迷からの復活劇を紹介しよう。
山形県寒河江市。同県のほぼ中央に位置する人口約4万人の市で、さくらんぼが名産品だ。JR寒河江駅から徒歩数分の場所に、佐藤繊維という紡績ニット会社がある。社名よりも「M.&KYOKO」などのブランドが有名だ。小田急百貨店新宿店、高島屋新宿店など東京の大手百貨店に店舗を構え、「ショップチャンネル」などのテレビ通信販売では完売が続出するほどの人気だ。
商品はレディースが中心だが、最近はメンズ商品にも力を入れている。
天然素材のまま洗えるウール
「今年の秋冬用に向けて、メンズ商品『991』という新ブランドを開発しました。ニットジャケットや長袖ニット、半袖ニット、靴下などを独自の製法で編んだ商品です」
こう話すのは、2005年に社長に就任した糸作家でデザイナーの佐藤正樹氏だ。この新ブランドの商品は、国内では大手百貨店や有名セレクトショップといった最先端のファッションを扱う小売店で販売される予定だ。
「今回の商品には、当社が独自に開発した『天然素材のまま洗えるウール』を用いています。少し専門的な話になりますが、ウールの原材料となる羊毛は素材自体が保温性や保湿性に優れていますが、唯一の欠点は洗うとフェルト(繊維が密に絡み合い離れなくなる)してしまうことです。そこで『洗えるウール』が開発されたのですが、実は羊毛の表面を塩素で溶かすため、羊毛が本来持つ『水を弾く』『湿度を調整する』といった機能も失われてしまうのです。当社は試行錯誤の末、塩素を使わない『洗えるウール』を開発したのです」(佐藤氏)
同商品は素肌に着ることもでき、非常に軽くて着心地がよい。後で経緯を紹介するが、商品には佐藤氏の信念であるモノづくりの気概も詰まっている。
「これまで日本の糸業界は、『欧州の人気ブランドはこんな糸を使ったニット商品だから、それを見習おう』と欧州ブランドを追いかけてきました。しかし弊社は、欧州の真似ではなく、日本だからつくれるニット商品として991を開発したのです。私たちがこだわる、企画・デザイン・商品開発・プロデュースを山形の地で行い、販路を東京や世界で行うものです」(同)