筆頭株主で親会社の前田建設工業から敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛けられている子会社の前田道路は2月20日、4月に開催する臨時株主総会で総額535億円の特別配当の実施を提案すると発表した。前田道路は20日午前に開催した取締役会で1株当たり650円の特別配当の実施を、4月14日に開催する臨時株主総会で提案することを決議した。特別配当のため、従来から計画している2020年3月期の配当100円(配当総額約85億円)とは別になる。基準日をTOB期限の2日後の3月6日に設定した。
今期配当と特別配当を合わせた配当総額は620億円。これは前田道路の19年12月末の手元流動性(現預金+有価証券、852億円)の73%に相当する。狙いはTOBの阻止である。前田建設は1月20日に発表したTOBの条件のなかで、前田道路が単独の純資産の10%に相当する額(200億円相当)を配当として支払う議案を株主総会に提案することを決定した場合には、「TOBを撤回する可能性がある」としていた。前田道路の12月31日時点の純資産は2093億円。今回の特別配当の規模は、手持ち純資産の25.6%に相当する。
前田建設はTOBに総額861億円(TOB価格は1株3950円)を投じるが、成功した暁には前田道路の豊富な手元資金を取り込む予定だった。しかし、巨額な特別配当を実施すると、TOBに成功しても、大半の資金は得られなくなり、わざわざ子会社とするメリットが減殺される。前田建設が当初想定した買収価格に見合う資産価値でなくなることを意味する。TOB期限は3月4日。TOB期間を最長で、臨時株主総会の2日後の4月16日まで延長することができる。
前田道路のTOB阻止策は焦土作戦と呼ばれるものだ。自社の企業(資産)価値を低下させることで、買収意欲を削ぐ戦術だ。2月20日の東京市場で、前田道路の株価は一時前日比10.6%(395円)安の3315円と、11年3月以来約9年ぶりの大きい下落率となった。終値3400円(310円安)。ちなみにTOBが急浮上する直前の1月17日の終値は2633円だった。資金流出につながる特別配当の実施で前田建設のTOBが撤回される可能性が高まったと判断した投資家が、持ち株を売ったものとみられる。
前田建設はTOBに突き進むのか。撤回するのか。前田道路の捨て身の反撃で厳しい選択を迫られることになった。
(文=編集部)
【続報】
前田道路は前田建設工業の敵対的TOB(株式公開買い付け)を牽制する動きを強めている。JXTGホールディングス傘下の道路舗装最大手のNIPPOと資本業務提携の協議を始めた。道路舗装技術のノウハウを持ち寄って経営の効率化を図るというのが建て前。NIPPOと組むことによって前田建設のTOBを抑え込む狙いがあることは明らかだ。NIPPOはJXTGHDが56.8%の株式を保有している。NIPPOは子会社に大日本土木を持っており、不動産開発も行っている。NIPPOと前田道路が資本提携すれば業界首位と2位が手を結ぶことになる。
●前田建設はTOB期間を延長
前田建設は2月27日、TOBの終了日を3月4日から同12日に延長すると発表した。
前田道路は2月20日、4月に開催する臨時株主総会で総額535億円の特別配当の実施を提案すると公表した。同日午前に開催した取締役会で1株当たり650円の特別配当の実施を、4月14日に開催する臨時株主総会で提案することを決議した。
今期配当と特別配当を合わせた配当総額は620億円。これは前田道路の19年12月末の手元流動性(現預金+有価証券、852億円)の73%に相当する。
前田建設は1月20日に発表したTOBの条件の中で、前田道路が単独の純資産の10%に相当する額(200億円相当)を配当として支払う議案を株主総会に提案することを決定した場合には、「TOBを撤回する可能性がある」としていた。2月27日に一部内容を訂正したTOBの届出書を出したが、その中で、「公開買い付けの撤回等を行うことがある」と明記。但し、「撤回等について現時点で決定した事実はない」とした。
巨額な特別配当の実施によって、前田道路は、前田建設が当初想定した買収価格に見合う資産価値を持つ企業ではなくなる。
前田道路の捨て身の反撃で厳しい選択を迫られることになった前田建設は、TOBの期間を延長した。