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コクヨ、ぺんてるへの敵対的TOB失敗、強引手法がアダ…文具業界、敵味方入り乱れ混沌

文=編集部
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「ぺんてる HP」より

 国内文具最大手のコクヨ(東証1部上場)に筆記具大手ぺんてる(非上場)の買収を断念させた、文具大手プラス(同)の社長が交代する。7月1日付で創業家出身の今泉忠久常務(46)が社長に昇格する。父の嘉久会長兼社長(77)は代表権のある会長に専念する。

 嘉久氏は慶應義塾大学卒。米イサカ大学商科修了。家業のプラスに入り1983年から社長を務めた。2008年、実弟の公二氏に社長の椅子を譲り、会長に退いた。公二氏は慶大卒で鹿島建設で修業を積んでプラスに入社。08年、兄・嘉久氏の後任として社長に就任。19年9月、71歳で亡くなった。嘉久会長が社長を兼務した。

 忠久常務は嘉久氏の長男。獨協大学経済学部卒、99年米アクロン大大学院修了。05年、プラスの関連会社アスクルに入社。人事、社長室担当を経て、13年プラスに移り、16年に取締役、17年から常務。プラスの祖業である流通事業部門のトップを務めるほか、人事・企画などに携わってきた。公二社長の時代に、猛烈な勢いでM&A(合併・買収)を進め、筆記具やノートを製造する会社を傘下に収め、メーカーとしての機能を充実させてきた。

 プラスは昨年、壮絶な経営権の争奪戦を2つ繰り広げた。1つは、元子会社だったアスクルの社長解任。もう1つがコクヨとのぺんてる争奪戦である。闘いの渦中で、公二社長が病に倒れ死去した。

 アスクルとぺんてるにどういう長期方針で臨むのか。新社長となる忠久氏の経営手腕が試されることとなる。

アスクル社長をヤフーと組んで解任

 筆頭株主のヤフー(現Zホールディングス)と対立していたアスクルは、19年8月の定時株主総会で岩田彰一郎社長と独立社外取締役の再任を否決した(ヤフーのアスクルへの出資比率は約45%)。ヤフーが消費者向けネット通販サイト「LOHACO(ロハコ)」の事業譲渡を申し入れたことから、両社の関係は急速に悪化。アスクルはヤフーに資本・業務提携の解消を求めた。

 アスクルの母体企業で約11%を出資する第2位株主プラスの今泉公二社長(当時)は、アスクルの社外取締役を兼務。ロハコについては赤字を理由に切り離しを再三、主張。法人向けの通販事業に特化するよう要求してきた。岩田彰一郎社長(当時)は個人向け通販は将来性が高いとして、ヤフー、プラスの要求を拒否。その結果、ヤフーとプラスは岩田社長の再任に反対し、岩田社長を解任した。

 内部昇格した吉岡晃社長は、独自商品の開発や配送の強化、販促で連携を進めることでヤフーと一致。協調路線に転じた。赤字のロハコ事業の再建が最優先課題となっている。

 アスクルは昨年の株主総会で独立社外取締役がゼロになったため、同社の指名・報酬委員会(国廣正委員長)は、インターネットによる大衆薬販売で先鞭をつけたケンコーコム(現・楽天)を創業した後藤玄利氏、弁護士の市毛由美子氏ら4人の社外取締役の候補者を選んだ。3月13日に開く臨時株主総会で選任議案を諮る。1年間続いた経営の混乱はようやく正常化に向かう見通しだ。

ぺんてるのホワイトナイトとなりコクヨを撃退

 ぺんてるプラス、買い付け会社ジャパンステーショナリーコンソーシアム合同会社(JSC)の3社は19年12月13日、ぺんてる株式の買い付け結果を発表した。プラスはぺんてるの経営陣が賛同する「ホワイトナイト(白馬の騎士)」として買い付け会社JSCを11月に設立。JSCが1株3500円で買い付けを進めてきた。

「約200名(株式持分比率にして約30%)のぺんてる株主の皆様にJSCへとぺんてる株式を売却いただき、ぺんてるの現経営陣並びにぺんてる、プラス及びJSCの資本業務提携を支持していただいている株主の皆様と合わせれば、株式持分比率にして50%を優に超える結果となっております。

 ぺんてるの多くの株主の皆様が、金額の多寡でなく、ぺんてるが目指してきた価値観に共感され、ぺんてるの存在意義を認められたことが、この結果に表れているものと受け止めております。

 この結果、ぺんてるはコクヨ株式会社が主張してきた、ぺんてるの連結子会社化という目論見が阻止され、これまで通り、ぺんてるの自主独立の経営・事業活動を継続することが確保されたと判断しております」

 事実上の勝利宣言である。コクヨは12月12日、ぺんてる株の買い付け結果を発表した。買い付け価格は1株4200円。2回にわたり買い付け価格を引き上げたが、それでも取得した株式の議決比率は7.86%。コクヨはぺんてるにすでに37.80%を出資しており、合わせると45.66%。売買契約が済んでいない0.6%を加えても目標の過半数に達しなかったことになる。

 ぺんてるはコクヨと進めてきた協業の協議も中止すると表明。また、コクヨに対するぺんてる株式の譲渡を承認しないと言明した。ぺんてるは上場しておらず、株式には譲渡制限条項がついていて、譲渡には取締役会の承認が必要になる。ぺんてるは、コクヨが取得した7.86%の株式の譲渡は認めないというわけだ。

 コクヨは上場企業である。約130億円を投下して、ぺんてる株式を手に入れたが、株主から「無駄な投資だ」との批判が出る可能性がある。

コクヨはぺんてるの買収を断念

 コクヨの黒田英邦社長は2月14日、大阪市で開いた決算記者会見で、「今後、敵対的に(ぺんてる株式の)買い増しはしない」と語った。目標としていた、ぺんてる株式の過半数の取得を断念する。黒田社長は「現時点で、ぺんてる株式の保有比率が、およそ46%にとどまっている」と認めた。

「大株主として良好な関係を構築したい」(黒田社長)意向だが、「片思い的なアプローチになる」(同)。激しく対立し、黒田社長が「解任」まで示唆した、ぺんてるの経営陣との融和には、かなり高いハードルがある。ぺんてる側は協議の可能性について「コクヨから直接、(買収断念の)報告はない。今は白紙」としている。

プラスがぺんてるに秋波を送るワケ

 ホワイトナイトを買って出たプラスの狙いは、どこにあるのか。

 買収を仕掛けられたぺんてるの和田優社長がプラスに頼ったのは、実は6年前に遡る。13年11月、秘密保持契約を結び、国内外の事業の広範囲な分野で協業を検討し、共同開発した商品を発売するなど実績を上げてきた。

 ぺんてるとプラスが結びついたのは、ぺんてるの“お家騒動”が発端だ。ぺんてるは12年5月、創業家出身の堀江圭馬社長を解任したが、圭馬氏が筆頭株主であることに変わりはなかった。新しい社長になった和田優氏ら経営陣は、圭馬氏の返り咲きを阻止するためプラスとの提携に踏み切った。圭馬氏は社長への返り咲きを、再三、試みたが、ほかの堀江一族の同意が得られず断念。18年1月、家族で保有していた約37%の株式を投資会社マーキュリアインベストメント(東証1部)が運営するファンドに1株2000円で売却した。

 19年初め、プラスは複数の会社と組んでぺんてる株を1株2700円で買い取る計画を打ち出し、マーキュリアと交渉を始めた。この過程で、コクヨが割って入った。1株3000円で全株を買い付けるという好条件を提示。19年5月、マーキュリアのファンドを支配下に置き、間接的に、ぺんてるに出資する“奇策”を取った。ぺんてるの経営陣はコクヨとマーキュリアの交渉の経緯を把握しておらず、「青天の霹靂」(和田社長)と反発した。

 19年9月、コクヨはぺんてるへの直接出資に切り替えた。ぺんてるは直接出資の切り替えは容認した。

 19年11月、コクヨの創業家出身の黒田社長は、「ぺんてるを子会社にする方針」を突然、明らかにした。「子会社化できれば経営陣を刷新する」と語ったことで、「コクヨは強引すぎる」(関係者)との声が高まった。これが、コクヨが敵対的買収に失敗した原因と指摘されている。

 子会社にするために、コクヨはぺんてる株式を買い増すことを決意。買収を社内外に告知した。この緊迫した局面でプラスがホワイトナイトとして登場する。総合文具メーカー第2位のプラスは、首位のコクヨが得意とするノート分野を含めて買収を重ねてきた。両社の攻防は「PK戦争」と呼ばれるほど激しい。コクヨがぺんてるに敵対的買収を仕掛けたのは、プラスがぺんてるを買収して、コクヨの牙城に迫ることを阻止するためだった。プラスがホワイトナイトを買って出たのは、コクヨがぺんてるを買収すれば、国内で断トツとなる。ぺんてる買収をなんとしてでも防ぐ狙いがあった。

 ぺんてる=プラス陣営は、コクヨによる買収を断念させた。だが、それでもコクヨが圧倒的な株式を保有する筆頭株主であることに変わりはない。両陣営の睨み合いは今後とも続く。「ぺんてる株式は売却しない」と言っているが、コクヨが保有する、ぺんてる株式をどうするのか、解決の糸口は見えない。

 コクヨとの対立が先鋭化する最中に、M&Aを主導しホワイトナイト役を買って出たプラスの今泉公二社長が亡くなった。「PK戦争」の、一方の主役の死である。新社長に就く今泉忠久氏は、公二氏が敷いたM&A路線を踏襲するのか。それとも軌道修正するのか。プラスがM&Aを続けるのは間違いないだろう。

 プラスの社長交代に文具業界が注目するのは、こうした複雑な背景があるからである。

(文=編集部)

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