巷を賑わせている台湾のEMS(電子機器の生産を請け負うサービス)企業である鴻海精密工業(ホンハイ)によるシャープの買収。これがシャープにとってベストな選択であるのかというポイントも興味深いですが、日本社会全体に対する影響がより気になるところです。
外資メーカーを受け入れたイギリス自動車産業の成否?
欧州の自動車大国といえば、真っ先にドイツが浮かんできますが、イギリスも年間生産台数150万台を超え、自動車産業は雇用の創出に大きく貢献しています。一昔前の自動車事情に詳しい方なら、ロールスロイス、ジャガー、ミニ、ローバーなど、数多くの由緒ある英国自動車メーカーが頭に浮かび、こうした状況は当然のことと思われるかもしれません。
しかし、いまやロールスロイスとミニは独BMW、ジャガーとローバーのブランドだったランドローバーはインドのタタ・モーターズの傘下に入っています。
実際、2014年のイギリスにおける自動車生産台数トップ5を見ても、日産自動車(50万台)、ランドローバー(37万台)、ミニ(18万台)、トヨタ自動車(17万台)、本田技研工業(12万台)となっており、海外のメーカーや資本に大きく依存していることがわかります。
外国メーカーの進出を受け入れることに対して、伝統ある数多くの自動車メーカーを抱えてきた英国において、多くの人が反対したであろうことは容易に想像がつきます。たとえば、日産の工場誘致に関しては、当時首相であった“鉄の女”マーガレット・サッチャー氏の強力なリーダーシップがあったからこそ実現したといわれています。
今回の台湾資本によるシャープの買収に関して、「日本の伝統ある家電メーカーが海外、しかも欧米ではなくアジア企業によって買収されるとはなんたることか」と批判的に捉える意見も多いようですが、こうしたイギリスの事例をみると、必ずしもマイナスの面ばかりではないように思えます。
ホンハイによるシャープ買収の是非
シャープに限らず、多くの日本の電機メーカーが厳しい状況に陥っているわけですが、その要因として人件費やインフラに関わるコスト高などがしばしば指摘されています。また、パソコン、テレビ、携帯電話端末などに関しては、汎用性の高い部品が市場にあふれ、組み付けに関しても以前のように高い技術力が必要なくなったというモジュール化の影響を取り上げる研究者も多くいます。