もちろん、こうした要因は日本のメーカーに大きな負の影響を与えていると思われますが、創業から長い時を経て創業者のDNAが薄れてしまった日本メーカーと、歴史が浅く創業者が第一線で会社を引っ張る、もしくは少なくとも創業者のDNAが色濃く残る中国、韓国、台湾といった海外メーカーの差という側面も見逃せないでしょう。つまり、創業者がもたらす求心力、一体感、大胆さ、意思決定のスピードといったものは、少々の技術力の差なら十分に乗り越えられるほどのパワーを持っていると考えられます。
こうした視点に立てば、ホンハイの創業者である郭台銘氏のリーダーシップは、シャープに大きな恩恵をもたらすかもしれません。また、ホンハイの主力事業であるEMSを活用し、従来よりも低価格で商品を市場に投入できる可能性も高いでしょう。
懸念されることといえば、EMS事業は生産に関わる技術力を必要とするものの、基本的にはいかに安くつくるかに重きを置くビジネスです。一方、これまで次々に革新的な商品を市場に投入してきたシャープのような企業においては、コストももちろん重要な問題ですが、クリエイティビティを大事にするという文化があるはずです。こうしたクリエイティビティに重きを置く企業では、基礎的な研究や商品開発において無駄がつきものですが、ホンハイがこうした無駄を「価値ある投資」として、どこまで許容できるのかは興味深いポイントです。
真の日本の実力とは
近頃、「経済が停滞している現状で増税はナンセンスだ」という声が数多く聞こえてきますが、本当に日本の経済は停滞状況にあるのでしょうか。日本の黄金時代とも呼べる1980年代と比較するなら、停滞状況と断言できるでしょう。しかし、当時の日本企業は欧米企業に対して十分な価格競争力があり、さらにほかのアジア企業とは格段に技術力の差があったという“隙間の時代”です。よって、そう簡単には、同様の状況は再びやってこないでしょうし、仮にやってきても“隙間”ですから、長くは続かないと考えるべきでしょう。また、この時代の日本の大手メーカーには、現在の中国企業のように創業者DNAが色濃くみられるケースも多かったと考えられます。
日本の今後を考えるにあたり、まずこうした事実をしっかり見つめ直す必要があります。現在の経済状況を「停滞」と捉えるならば、大型の財政出動や日本企業の日本資本優先の救済には理があるといえますが、停滞ではないとすると身の丈を超えた財政出動の中止、さらなる外資の受け入れにも積極的に着手すべきとなるはずです。
どのような政策を実行するにせよ、真の日本の実力を公正に判断し、立ち位置を定めることが重要な基礎となります。言い換えると、立ち位置が間違っていれば、何を実行しようと大きな効果はないはずです。何を行うかに注力するのではなく、まず立ち位置を見極めることに真摯に取り組むことが、国レベル、企業レベルのどちらにおいても重要であるといえるでしょう。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)