小池百合子東京都知事が3月25日の記者会見で、都市封鎖や爆発的感染の危機だと言い始めてから、東京都を中心に首都圏では食品を中心とした買い占めが始まった。すると、大手スーパーマーケットのイオンは、テレビの取材に物流倉庫の在庫を見せて「米やカップめん、トイレットペーパーは十分あるので、消費者は落ち着いた行動を取るように」と呼びかけた。
つい最近、似たような光景がテレビで何度も紹介されていた。それが、トイレットペーパーだ。やはりある業者が、物流倉庫のトイレットペーパーをテレビで見せ、在庫は十分にあると訴えていた。しかし、店頭での品不足は続くと、今度は在庫はあるがトイレットペーパーを店まで運ぶ物流が滞っていると弁解をした。そのトイレットペーパーも、一時期ほどではないが品薄状態は続いている。
国民は、政府の「マスクは十分ある。いついつからは店頭に十分並ぶ」という言葉を何回聞かされただろうか。いつまでたってもマスク不足は解消されない。もう消費者は騙されない。筆者は、この問題で最初から「店頭に山と積まれなければ消費者は信じない」と言っているが、物流倉庫の在庫が自分の近所の小売店に来るわけではない。
食料品の在庫については、国は国会で明確に答弁している。「米は、国と民間在庫で国民の消費量の6.2カ月分、食料小麦は2.3カ月分、大豆は民間在庫で1カ月分」であり、今後「輸入先を変えなければならない事態も考えられる」と述べている。生産から販売までの間の物流在庫がどの程度あるかわからないが、どの事業者もできるだけ在庫を抱えたくないので、物流在庫全体で数カ月分あるかどうか疑わしい。
例えば、もし物流も含めた総在庫が米は約8カ月分、小麦は4カ月分強、大豆は3カ月分あるとすると、平時であれば、これで十分かもしれないが、世界中が異常事態の今、この在庫で日本国民の食料を十分賄えるのだろうか。もしも消費者が3カ月分の買い溜めをすると、日本全体の米の在庫は5カ月分、小麦は1カ月分、大豆は0カ月分ということになる。
米は秋から収穫が始まるので、よほどの不作でなければ持ちこたえることはできるだろう。ただし、全国的な自粛となれば予断は許さない。小麦と大豆は輸入次第だ。小麦の輸入先は米国と豪州、大豆は米国、ブラジル、カナダである。果たして、今まで通りの輸入量を確保できるのだろうか。
小麦といえばパスタだが、これはほとんどが輸入。では、うどんやラーメンは何カ月分の在庫があり、何カ月分先まで小麦の輸入量は確保できているのだろうか。納豆は何カ月分の在庫があり、輸入大豆は何カ月分の輸入量が確保できているのだろうか。食品に関しては、新型コロナウイルスの影響はどの程度なのだろうか。もしも国や東京都が緊急事態宣言をしたら、食品はどんな影響を受けるのかも明確に示してほしい。「十分ある」という抽象的な言葉で逃げないでほしい。
コロナ生活苦を防ぐために
日本の緊急事態宣言は、法的拘束力はなくても、テレビが出歩いている人を見つけて「自粛をしていない悪い人だ」と国の代弁をする。一歩でも外に出ると極悪人のような扱いを受ける可能性がある。緊急事態宣言を出しただけで都市封鎖に近い状況が起こりうる。
食品だけではないが、日本の場合、一つの商品が店頭に並ぶまで、数多くの中小事業者がかかわっている。そうした企業は、テレワークも時差出勤もできない。工場に行かなければ、現場に行かなければ仕事にならない。生きていくことができない。
緊急事態宣言を出すことによって、事実上中小企業の動きを止めれば、日本の食は簡単に止まる恐れもある。日本特有の商業形態だが、それによって多くの人たちが生活をすることができている。もちろん消費者もだ。自粛をすればするほど、コロナの前に生活苦も同然になる人々が無数に出る。日本を支えている庶民の生活を奪えば、日本は立ち行かなくなる。
もう“在庫あるある詐欺”はやめてほしい。国民にウソをつくのはやめてほしい。一番冷静にならなければならないのは、国であり地方自治体であり大手事業者だ。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)