クラフトビール市場に活路を求めた理由
キリンが「ビールの復権には長期的戦略で取り組むべきだ」と、クラフトビール市場に本格参入した15年度は、「クラフトビール元年」だといわれる。
国内のクラフトビール(地ビール)市場は、15年度で醸造所数が250カ所、銘柄数が累計で564点。資金的にも余裕の少ない小規模醸造所が乱立し、廃業に追い込まれるところも多い。クラフトビール市場は15年度でビール類全体のシェアは出荷ベースで0.7%程度、金額ベースで1.4%程度と推定される。一方、クラフトビール先進国の米国では14年度で出荷ベースのシェアは7.8%、金額ベースで14.3%もあるといわれる。日米のクラフトビール市場の差が大きいのは、酒税法の規制によるところが大きい。
米国では家庭用ビール醸造キットで自らビールをつくることが許可されている。手づくりでビールをつくることで、クラフトビールの良さを理解し、ファンになっていく。このような底流が米国のクラフトビール人気を高めている理由だ。これに反し日本では梅酒や甘酒などつくることはともかく、自宅でビールをつくることは酒税法で禁じられている。このため手作りのクラフトビールの人気もなかなか高まらなかった。
そんななかで近年、輸入ビールを30~50種類くらい取り揃えたビアパブ、クラフトビールが若い人たちの人気になっているのは、若い人たちが海外旅行などで世界のビールやクラフトビールを飲む機会が増えてきたからだ。海外で魅力的なビール体験をした人たちは、帰国後も海外で飲んだビールを求めるのが常だ。グローバル化の進展や訪日外国人2000万人時代などの新しい現実が、日本のビール類市場にピルスナータイプ一辺倒のビールだけではなく、新しい魅力的なビール、つまりビール類の多様化を求めているのだ。
キリンが市場規模の小さなクラフトビール市場に本格的に参入、一方では「47都道府県ビール」というクラフトビール的な地域密着型ビールの新発売に踏み切ったのは、まさに「歴史的な出来事」であった。100年以上続くビール業界の歴史は淘汰再編の歴史であり、キリンの「ラガー」、アサヒビールの「スーパードライ」など単品大量生産、稼働率向上、効率化追求の歴史であった。キリンはあえてクラフトビールと「47都道府県一番搾り」のコスト増、非効率化を選択した。
裏を返せばキリンにそれだけ危機感が強いということだ。少子高齢化、人口減少社会のなかでビール類市場がこのまま縮小していくのは確実だ。そんななか、ABインペブが日本市場に参入する。国内ビール4社のどこが買収されてもおかしくはない世界のビールの巨人の出現だ。もはやこれまでのようにビール4社が生き残る時代は終わったように思える。ビール類業界の関係者が語る。