新型コロナウイルスの感染拡大を受け、治療に用いられる人工呼吸器や人工心肺装置の需要が急激に高まり、株式市場でも人工呼吸器関連銘柄が動意づいている。
西村康稔経済再生担当相は会見で、新型コロナウイルスの感染拡大に備え「人工呼吸器の増産を関連企業に要請した。応じた企業には補助金などの支援策を講じる」と述べた。政府は新型コロナの感染がさらに広がる事態に備え、個室管理ができるベッドを全国で2万1000床、重症者向けの人工呼吸器を3000台確保したと説明している。
欧米では人工呼吸器の不足懸念が強まっている。イタリアでは死者数が1万人を超えたが、人工心肺装置などが足りず、重症患者への治療が追いつかないのが一因とされる。トランプ米大統領は米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)に対し、人工呼吸器を生産するよう命令した。米政府の要請を受け、旭化成は米国の医療機器子会社を通じて人工呼吸器を増産する。子会社の人工呼吸器は携帯型で、集中治療室(ICU)や救急車両などで使われる。早期に生産量を現在の25倍の月間1万台に増やす。
国内でも補助金の創設を含めて検討が進められていることもあって、株式市場では旭化成や三菱ケミカルホールディングス傘下の産業用ガスメーカーの太陽日酸、脳波計で世界首位の日本光電工業、心電計トップのフクダ電子、医療用ガス首位で関東地方のシェアが3割強の星医療酸器といった関連銘柄に関心が集まる。フクダ電子、星医療酸器はジャスダック市場。その他は東証1部に上場している。
星医療の株価は急騰した。配当落ち分を考慮した基準値比で上場来高値を連日更新し、3月31日には6940円となった。星医療は在宅医療向けの酸素濃縮器などを手掛けており、今後需要が急増するとの思惑から、個人投資家の買いが集まった。その後は利食い売りに押されて5000円台前半の値動きとなった。
注目銘柄の筆頭は人工心肺装置のテルモ
「ECMO(エクモ)」と呼ばれる人工心肺装置を製造するテルモ(東証1部)が注目銘柄の筆頭である。カテーテルなど心臓血管領域で強みを持つ技術集約型の企業だ。
肺炎の治療向けの人工心肺装置の需要が高まるなか、国内最大手のテルモが生産量を現在の倍以上に増やす。年間百数十台を生産しているが、今後数カ月以内に100台超のエクモを供給する。人工心肺装置は自力で呼吸する機能を体の外に置き換える装置。装置本体にチューブやポンプなどの部品を組み合わせて作動させる。血液を患者の体外に取り出し、酸素を供給し二酸化炭素を排出してから戻す。
新型コロナに感染して、肺炎が重症化した場合、自力呼吸が可能ならば人工呼吸器で肺の機能を補う。それ以上に重症化して肺が呼吸機能を失った患者は、人工心肺装置が必要になる。
テルモは国内の約7割のシェアを持ち、泉工医科工業(東京・文京区、非上場)が約3割でテルモに続く。泉工医科工業の年間生産量は50~60台だが、これを70~80台に増やす。国内の医療機関には約1400台エクモが設置されており、年間1万件程度の治療が行われている。政府はすでにエクモの増産に補助金を出すことを決めており、テルモ株は大幅高になった。コロナ禍で世界経済が失速する懸念が広がり、日経平均株価が大暴落するなか、テルモ株は3月17日の安値2880円から、4月7日の高値3759円へと3割値上がりした。年初来高値(2月6日)の4130円が次の株価のターゲットになるとアナリストは見ている。
感染爆発に備え、医療用ベッドの需要が高まる
都道府県は感染症対応病院だけでなく、一般の病院にも患者の受け入れの協力を要請し、ベッド数の確保を急いでいる。今後、感染爆発が起きれば、ベッドだけでなく、医療従事者も足りなくなる。そのため無症状者や軽症者は入院せず、ホテルや自宅で療養してもらう態勢が動き出した。
医療用ベッドの需要が高まると見て、“ベッド銘柄”も注目だ。医療・介護用ベッドでシェア7割をもつパラマウントベッドホールディングス(東証1部)、フランスベッドホールディングス(同)や介護ベッド専業の中堅企業、プラッツ(東証マザーズ)に動意が見られる。
新興市場に詳しいアナリスによると、株価的に妙味があるのは介護用ベッド通販のプラッツ(本社福岡県大野城市)だ。福岡県とベトナムに生産拠点を持っている。今年3月、高齢者施設向けの標準モデルを11年ぶりに一新、初の透析室向け電動ベッドを発売した。コスト面で競争力がある廉価な医療介護用電動ベッドの販売に注力、中国市場向け製品のラインアップを充実させる考えだ。
プラッツの20年6月期の売上高は前期比7%増の63億円、純利益は37%増の4億円を見込む。年間配当を前期比8円増の32円とする。プラッツの4月8日の終値は1310円。3月23日の安値945円から4割弱上昇した。年初来高値は2月13日の1868円である。
(文=編集部)