ツイッターのツイートまとめサイト「Togetter」で【『コロナが流行って本屋が儲かる』各地の書店が客足急増らしい「発注が追いつかない」「今年は異様だと聞いた」なぜなのか?】というまとめがつくられている。そこには、コロナ禍で忙しくなった書店員たちの発言がまとめられている。
果たして、これは局地的な現象なのか。出版販促会社として出版社および著者の販促サポートを行う、(株)出版SPプラス代表取締役の山本豊氏に話を聞いた。
都心の大型書店で見かける客は3割程度に
――「コロナで書店が忙しい」という発言元のつぶやき【※1】が行われたのは3月15~16日ですが、日々多くの書店を見ている山本さんは「コロナと書店」の状況をどう見ていますか?
山本豊氏(以下、山本) 店舗によりますね。都心の大型店舗は苦しいです。感覚ですが、3月に入り外出自粛要請などが出てから、店内で見かける人は3~4割程度まで減ってしまっています。そのような書店では、売り上げも同様に落ちているようです。
――半分以下だと。「客足急増」どころじゃないですね。
山本 また、単に「お客さんが減った」だけでなく、外出自粛、さらに非常事態宣言を受け、書店から各出版社へ「営業職員の書店への販促を自粛してほしい」という声も出ています。出版社の営業さんも、自社の書籍の販促のために、普段は頻繁に書店に足を運んでいるんです。そういった方がいなくなり、余計に書店から人が少なくなったように見えているというのもありますね。
ですが、一方で、都心の大型店舗などに行けない代わりに、郊外型の店舗や商店街の小型の書店などは、以前より人が増えているケースもありますね。遠出は控えて、近場で買っておこうと。
――「忙しい」とつぶやいたのは、郊外型書店の店員さんなのかもしれないですね。ただ、そのつぶやきが寄せられた3月中旬から状況はさらに深刻化し、時短営業を始めた書店も多いですよね。
山本 そうですね。3月までは時短営業が多かったですが、非常事態宣言を受け、ゴールデンウィーク明けまで休業に入った書店もあります。ですから、今後は書店に行く人はさらに減ってしまうのかな、とは思います。
直取引の強化でますます存在感を増すAmazon
――山本さんには、3年前の2017年にもお話をうかがいました【※2】。その際、「書籍の市場規模は右肩下がりが続いている」とありましたが、現在はいかがでしょう。
山本 まず市場規模ですが、全国出版協会・出版科学研究所の発表による出版業界(書籍、雑誌)の市場規模は1996年に2兆6000億円でしたが、2015年には1兆円減となる1兆6722億円、さらに19年は1兆5432億円と、右肩下がりではあります。ただ、直近の19年と前年の18年を比較すると、紙の市場は前年比4.3%減少でしたが、電子出版が前年比23.9%増と大きく成長したため、全体では1兆5400億円→1兆5432億円と、微増ですが下げ止まったんです。
――18 年は「漫画村」騒動が社会問題として取り上げられた年ですよね。19年には、漫画村運営者である星野ロミ容疑者が逮捕されました。不正な無料閲覧サイトの摘発が電子書籍の市場規模拡大につながったところもあるのでしょうね。しかし、紙の書籍の苦戦は続いています。
山本 書店で見ていても、書籍は買う層が限られてきているという印象はありますね。読書好きな方は書店で数冊買われているケースも見かけますが、減少に追いついてはいません。
――次に、17年時点で「書店は潰れてゆき、Amazon一強の時代になりつつある」というお話がありましたが、こちらはいかがですか? 電子書籍ではAmazonだけでなく楽天Koboをはじめ、ほかのサービスも存在感を示していますよね。
山本 Amazonの力は、3年前よりますます強まったと思います。大きな要因は、消費者が、というよりAmazonと出版社の直取引が活性化したことです。本来、出版社は取次(書店の問屋)を介して書店に本を送りますが、Amazonは取次を介さない直取引を求め、それに応じている出版社も出てきています。
――Amazonとの直取引による出版社側のメリットはなんでしょうか。
山本 まずはスピード感ですね。取次を介さないため、スピーディーにAmazonで書籍を販売することができます。また、Amazonが出版社の在庫を持ってくれるため、品切れを起こしづらいのもメリットです。出版社側から見れば、金額的には取次を介するより条件が悪くなってしまうケースもあるのですが、そのようなメリットがあるため、直取引を選んだ出版社も多いです。
――テレビに著者が出て、数時間後にAmazonを見ると、書籍が品切れになっていてせっかくのチャンスにもったいないと思うことがあるのですが、そういったことが防げるんですね。
山本 はい。あと、Amazonの強みとしてAmazonキャンペーンもあります(著者がAmazonで自著を買ってほしいと呼びかけ、特典なども用意すること。ランキングが上がり売れやすくなる)。Amazon以外の書籍のECサイトで「○○キャンペーン」といった言葉は聞きませんから、新刊が出たときに著者側がする販促はAmazonキャンペーン一択という点でも、影響力の高さがわかります。
――Amazonキャンペーンの効果は賛否両論がありますが、確かにAmazon以外の「○○キャンペーン」は聞かないですよね。
ブックオフはネットで注文→店舗受取が可能に
出版業界の市場規模は縮小が続いており、その右肩下がりの状況を見れば「書籍離れ」が起きているとも言える。しかし、これはあくまで新刊の市場規模であり、「中古書籍」市場が入れば、状況がひっくり返るとまでは言わないが、少しは違ってくるようにも思える。
特に、ここ数年でメルカリをはじめとしたフリマアプリによる個人間売買が飛躍的に伸びた。大手アプリでは住所や氏名を互いに知らずに済む匿名発送に対応しているところも多い。メルカリでは、「中古書籍をメルカリで買って読んだから、また出品する」と書かれたケースも見かける。
フリマアプリより歴史の長いブックオフでは、昨年からネットで注文した書籍を送料無料で店舗で受け取れるサービスを始め、中古書籍通販の最大のネックであろう送料問題を解消し、1冊だけでも気軽に注文しやすくなった。
年々、中古書籍を手に入れるためのサービスは洗練化している。なお、ブックオフの売上高は19年3月期で807億円だ。一方で、出版の市場規模は15年から19年で1300億円減少している。
ブックオフは本だけでなく高単価なブランド品や家電なども販売しているので、単純なトレードオフの関係ではないが、中古書籍の販売方法の洗練化は「中古でいいや(≒新刊は高いし)」層を増やすだろう。出版社と著者に金が入らないだけで、書籍は案外読まれているのではないかとも思う。一方で、この事態は、出版業界の市場規模減少を招いている一大要因でもあるが。
また、新刊であっても、紙でなく電子書籍ならば期間限定で割引をしたり、途中まで無料で読めたり、プラットフォームによっては割引券が配られたりするなど、柔軟なサービス展開が続いている。こういった中古書籍や電子書籍のサービスが洗練されるほど、「紙の新刊だけが高い」ことがどんどん目立ってくる。
出版不況の原因には、不景気で可処分所得が減り、さまざまなサービスが時代に合わせキャッチアップしていく中、紙における出版業界の「オールドスタイルを貫く」昔気質なところもあるのではないかとも思う。
後編も引き続き山本氏に、コロナ禍の中で売れている本のジャンルや書籍の現状についてうかがう。
(構成=石徹白未亜/ライター)
【※1】【『コロナが流行って本屋が儲かる』各地の書店が客足急増らしい「発注が追いつかない」「今年は異様だと聞いた」なぜなのか?】
【※2】『書店が6000店も減少している! 懐かしの「ロードサイド書店」をつぶしたのはAmazonか?』
●山本豊氏ホームページ「(株)出版SPプラス」