HDD向けから車載向けモーターへ大転換
日本電産の16年3月期の連結決算(米国会計基準)の売上高は、前期比14.6%増の1兆1782億円、営業利益は12.3%増の1245億円、最終利益は20.8%増の918億円。純利益は3期連続で過去最高を更新した。
だが、この数字では満足できないのだ。スマートフォン(スマホ)向けの振動部品が急減速し、関連設備の減損損失34億円を計上したからだ。
スマホ用触覚デバイスは米アップルが昨秋に発売したスマホの最新機種「iPhone 6s」に採用されたとされる振動部品だ。手触りの感覚を再現できることから車や医療、ロボットの遠隔操作への応用を見込んでいた。
スマホの減産が響き、100億円超をかけた最新鋭設備の稼働率が落ち込んだため、設備を償却した。
日本電産はパソコンに搭載されるハードディスク駆動装置(HDD)用モーターで世界のトップシェアを築いた。スマホの普及でパソコンの需要が減り、HDD向けモーターの市場は縮小した。永守氏がスマホ時代の切り札としたのが触覚デバイス。第2のHDDになることを期待したが、空振りに終わった。
永守氏が次にアクセルを踏んだのが車載用モーター。16年3月期の製品グループ別売上高・営業利益によると、「車載及び家電・商業・産業用」の売上高は前期比20.6%増の5547億円、営業利益は30.7%増の476億円と高い伸びを達成した。創業事業である「精密小型モーター」の売上高4479億円を上回った。
ルネサス獲りは成功するのか
決算発表の席上、永守氏は半導体大手のルネサスエレクトロニクスについて「買う可能性はある」と述べ、エレクトロニクス業界に流布している噂を否定しなかった。車載向け半導体を取り込んで、車載事業の裾野を広げる長期的な狙いがあるからだ。
ルネサスは旧ルネサステクノロジと旧NECエレクトロニクスが経営統合。自動車マイコンで世界シェア4割を持つ。官製ファンド、革新機構の傘下で経営再建中である。トヨタ自動車、日産自動車、キヤノンなど主要取引先8社が出資している。
“日の丸半導体”メーカー、ルネサスは株主と経営陣の対立の歴史だった。迷走の果てに13年6月、オムロン会長を務めた作田久男氏が会長兼CEO(最高経営責任者)に就任し、再建に向けて歩み始めた。