吹き荒れる脱石炭火力の嵐
気候変動が非常事態を迎えるなか、脱石炭の嵐が吹き荒れている。石炭火力発電は石油や天然ガス発電に比べて気候変動の主因である二酸化炭素(CO2)を大量に吐き出すからだ。喫緊に石油から天然ガスへの移行、さらにCO2排出ゼロが求められる2050年までには火力発電そのものを廃止することさえ強く求められている。
火力発電、とくに石炭火力をベース電源として使っていると、交通におけるCO2削減の切り札として投入するEV(電気自動車)の意味が失われてしまう。EVに大きく舵を切る欧州としては、なんとしても石炭火力をやめなければならない。
日本は石炭火力から離れられない
しかし、採掘が容易で価格が安く、発電施設もシンプルな石炭火力は、先進工業国だけではなく、発電の拡大が必要な発展途上国で強く求められている。日本では石炭火力をベース電源と位置付けて、三十数カ所の石炭火力発電所を新たに建設する予定だ。だが、小泉進次郎環境大臣がNGOから恥かきの「化石賞」を貰うなど逆風が強まると、途上国に最新の石炭火力発電所を建てると防戦に必死だ。
日本が火力発電をやめられない理由の一つに、火力発電で重要な役目を果たすボイラーやタービンの生産が、日本の産業・経済のリーダーである重工業の主な売り上げになっていることがある。
たとえば、三菱重工の利益の6割は火力事業(パワー部門)である。もっともこうした傾向は日本にとどまらず、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)やドイツのシーメンスといった巨大企業もそうである。これまでの産業・経済のけん引役を簡単に舞台から引き下ろすわけにはいかない。
EVも大量のCO2を出す
EVは走行中にはCO2を排出しない。バッテリーに充電した電気でモーターを回して走るからだ。しかし、充電に使う電気を火力発電で発電した場合は、間接的にCO2を排出してしまう。日本国内ではどうか。
国内では電力会社によってCO2排出量が異なる。火力発電以外の原発や水力の割合が異なるからだ。ちなみに火力でも石炭、石油、天然ガスの割合で排出量は異なる。たとえば沖縄の発電所のほとんどは石炭発電だが、こうした地域で充電した場合は、EVよりもHV(ハイブリッド車)のほうがCO2排出量は少ない。
沖縄で充電すると、日産「リーフ」よりもガソリンで走るトヨタ「プリウス」のほうが排出量は少ない。リーフは1キロメートル走って77.2グラム、プリウス(Eグレード JC08)は59.5グラムである。石炭火力発電は、ゼロエミッションのはずのEVの利点をだいなしにしてしまう。
CO2 ハイブリッド車とEV
電事連(電気事業連合会)では、石炭火力だけではなくエネルギーミックスした発電に伴うCO2排出量を毎年、発表している。2018年度では1キロワット(1000ワット)時の発電量で463グラムのCO2を排出した。1000ワットの電気コタツを1時間使った時の排出量である。この値で40キロワット時のバッテリーを積むリーフのCO2排出量を計算すると(JC08)1キロメートル走行時に46.3グラムだ。
ということで石炭、天然ガス、水力のミックス発電であっても、その割合によっては世界一の燃費を誇るHV(59.5グラム)よりもEVのほうがCO2排出量は少ない。
プラグインハイブリッド車は?
こうなるとEVとハイブリッド車の中間的な特性を持つPHV(プラグインハイブリッド車)が気になる。CO2排出量は多いのか、少ないのか。PHVは自分のエンジンだけではなく、家のコンセントや普通充電器など外部からも充電可能なハイブリッド車で、通常のHVが積んでいる電池の数十倍の電池を積んでいて、電気だけで走れる距離が50~100キロメートルと長い。この範囲内の距離で使うのであれば走行中のCO2はゼロである。さらに遠出の場合はエンジンとガソリンで長く走れるので、使い勝手もよい。
ということで多くのメーカーがPHVを用意するのだが、エンジン車に比べるとバッテリー、駆動用モーター、バッテリー充電用の発電器、大きなガソリンタンクも搭載しなければならず、重く複雑でコストも高い。HVに比べてもバッテリーの量が多く、EVに比べると充電用モーター、エンジン、ガソリンタンクが余計である。バッテリーの価格が十分に安くなると、PHVの役目は次第に少なくなる。
次世代車を決めるものは
次世代車のキーはまず価格だろうが、EU、カリフォルニア州など米国の一部の州、中国などはEVに対するインセンティブに加えて非EVには罰金も用意しており、車両価格だけではなかなかユーザーを取り込めない。一方、EUをはじめとして各国で電池の生産拡大が始まっており、2020年代の早いうちに電池の価格は大幅に下がる。EVの価格はガソリン車並みになるかもしれず、次世代車の行方はますます混沌とするだろう。
(文=舘内端/自動車評論家)