山梨県に本拠地を置く、昭和22年(1947年)創業の歴史ある鉄工所・Y社。「後世に残す鉄骨を作る」を社是とし、山梨県立図書館の鉄骨をはじめ、関東一円の地域を代表する建築物の鉄骨や、高難度の鉄骨を製作している会社だ。
取引先には清水建設やフジタなど大手ゼネコンが名を連ね、業界団体である一般社団法人山梨県鉄構溶接協会の理事も務める。また、厚生労働省による基準を満たした若者応援企業でもある。これは、一定の労務管理の体制が整備され、35歳未満の若者の採用・育成に積極的で、通常の求人情報よりも詳細な企業情報・採用情報を公表する中小・中堅企業を指す。
そんなY社のグループ企業が、取引先企業に対して出資金詐欺を行い、かつ計画倒産を図った疑惑が持たれている。
事件概要
被害者はA社。加害企業は、Y社が出資し同社会長の子息B氏が経営していた輸入商社のB社である。A社代表のA氏とB氏は長年の付き合いがあり、商材の取引関係もあるという親密な関係性であった。
2013年4月、B氏からA氏に対して連絡があった。B社が宝飾品の加工工場を買い取ったのだという。山梨県ではそもそも宝飾品加工業が盛んであったため、A氏は知らせを聞いて、その方面にも進出していくのだな、という程度の認識しかなかった。
加工場を運営しているのはまた別会社のC社で、同社に対してはB氏のほか、Y社からも出資がなされていた。山梨まで赴き、C社代表のC氏を引き合わされたA氏は、その場でB氏から以下のように、好条件の取引を持ちかけられる。
「貴金属業者はリース取引などを利用して、貴金属の調達や運用を行っている。リースの金利は、貴金属業者の収入源ともなっている」
「当社は受注状況がよくて金地金のニーズがあるが、C氏が以前に銀行借入をリスケしたことがあるため、現在銀行から金地金購入資金を借りられない」
「現金仕入れが難しく、周囲の会社から高利率で金地金を借りざるを得ない状況のため、利益を圧迫している」
「だから、仲のいい数人の友人に声掛けして、金地金購入のための出資を募っている」
出資は私募債として、月当たり3%、年率36%の配当を約束するという。条件としては良い話であったが、A氏はその時点では資料を受け取っただけで終わった。かかる打ち合わせが終了後、たまたま外にいたY会長のY氏に対して、B氏はA氏のことを「出資してくれるビジネスパートナー」だと紹介した。