タイヤは空気圧が高いと、ころがり抵抗が小さくなるが、限度がある。気温が高ければタイヤの空気は圧力が高くなり、ころがり抵抗が低減する。これもわずかだ。
そのほか、エンジンや変速機に使われる潤滑油(オイル)も気温が高いと柔らかくなり、ころがり抵抗が小さくなる。だからといって、暑い日には燃費が良くなるとは限らない。暑いと空気密度が小さくなる。湿度が高い分、空気中の酸素が少なくなりエンジンの効率が落ちるので、パワーが落ち、よけいにアクセルを踏む。燃費は悪化する。エンジンは、高気圧で寒い冬の日が調子が良い。
たとえばテストコースでころがり抵抗を測定したときの気温、気圧、湿度などをころがり抵抗が悪化する値に書き換えると、どうだろうか。これらをころがり抵抗に適した標準状態に戻すと、抵抗は少なくなり、そのデータを入力したローラーの回転抵抗は少なくなって滑らかに回る。軽くなったローラーを回すには少ない力で済み、エンジンはあまり力を出さなくて良い。よって、ガソリンをあまり消費せず、燃費の測定データは良くなる。
こんなデータ偽装はまさかやっていないと思うだが、スズキはテストコースで実走行をせず、これまでのデータを整理整頓して積み上げ、それを使っていたという。ただし、燃費は実際の走行データと大きくは違わないという。であれば、最初から実際に走行させて燃費を測れば良かったのではないだろうか。
真犯人は、これだ
では、本当の燃費はどうすれば測定できるのだろうか。それは不可能だ。「本当」などないからだ。あるいは、すべての燃費データが本当なのである。
私たちはデータが示されないと、不安で仕方がない。コスト/パフォーマンスや利益率、売上、偏差値などが1%でも、1mmでも、1gでも違うと血相を変える。また、本当と嘘がはっきりしないと落ち着かない。しかし、歴史とは時の権力者の歴史であるとよくいわれるように、史実といってもなかには時の覇者に都合良く書かれたものがある。真実を探すのは容易ではない。だからといって嘘が大手を振って通る世の中であっては困る。
それにしても、高価な測定器を使って優秀なエンジニアが何日もかかって測定したカタログ燃費は、この世の中に実際には存在しない一種の幻想というのも、なんだか寂しい。燃費は私たちの実生活のなかで、しっかりとらえることが大切ではないだろうか。カタログ燃費ならぬ「マイ燃費」である。これほど真実に近い燃費はなく、しかも実用的である。